バッターボックスの立ち位置は打者のバッティング内容や結果に影響を及ぼします。
打者にとってバッターボックスは仕事場と言えますから当然です。仕事場の環境が良くなければ、良い仕事などできませんからね。
しかしながら、無頓着にバッターボックスに入り自らスペックダウンしてしまう打者は意外に多い。本人が理想的な立ち位置だと思っていても、結果的には「最悪な立ち位置」になっていることが結構あるのです。
この記事ではそのような方に向け、実戦で役立つバッターボックスの立ち位置について詳しく解説します。
特に初球から打つことが苦手な選手ほど効果的であり、すぐ実践できる内容ですので是非役立てて頂きたいと思います。
バッターボックスの立ち位置における基本知識
まずはバッターボックスの立ち位置に関する一般的な基本知識について。
- ホームベースに近づくと、外角が届きやすくなるが内角が窮屈になる
- ホームベースから遠ざかると、内角に余裕ができるが外角が届きにくくなる
- ピッチャーに近づくと、変化球の変化量が少なくなるがボールを見る時間が短くなる
- ピッチャーから遠ざかると、ボールを見る時間が長くなるが変化球の変化量が大きくなる
これらはバッターボックスの立ち位置の特徴として昔から言われていることであり、多くの選手はこれと自身のバッティングスタイルを考慮して一番打ちやすい立ち位置を決めることになります。
これは野球経験者なら言われるまでもなく、ほぼ全ての人がやっていることでしょう。
問題はここから。
あなたがバッターボックスに入るとき、前に立っていた打者が掘った穴をそのまま利用していませんか?
そうであった場合、今すぐそんなことを止めて下さい!!
理由は次項で説明します。
前の打者が掘った穴を使う2つのデメリット
打者のバッティングフォームは選手により異なりますから、当然バックスイングにおける軸足(キャッチャー側の足)の使い方も異なります。
そのような状況で作られたバッターボックスの穴が、あなたのバッティングにフィットするとは限りません。スタンスも違えばステップ幅も違うわけですから、そもそもフィットする可能性の方が低くなって当然。
具体的には2つのデメリットがあります。
目の錯覚が大きくなる
試合が進むにつれてバッターボックスの穴はどんどん掘れていきます。そのような穴にバックスイングの軸足(キャッチャー側の足)を置いてしまうと、キャッチャー側に傾いて構えることになってしまいます。
ピッチャーは打者が立っている所より高い位置であるマウンドから投げ下ろしますので、普通の状態でも打者はヘッドアップしがちです。
その状態からさらに打者の体がキャッチャー側に傾いていたら、ヘッドアップの度合いがさらに大きくなってしまいます。
ヘッドアップの度合いが大きくなると目の錯覚も大きくなり、より打ちづらくなってしまうのは当然のことです。
初球からバットを振れなくなる
前の打者が掘った穴があなたにフィットしない場合、きっとあなたは違和感を感じるはずです。
その状態でピッチャーに投げ込まれても、「バットを振って良いのか?」と迷いを生じさせ初球や若いカウントのボールを積極的に打つことができません。
バッターボックスの立ち位置を微調整している間に2球目、3球目と投げ込まれてしまえば、あっという間に不利なボールカウントに追い込まれることもありうるのです。
ひとこと
これら2つのデメリットは前の打者が掘った穴を使った弊害ですが、これについて語られることは少ないんですよね。
先程説明した「バッターボックスの立ち位置における基本知識」については昔からよく耳にしますが、それはあくまで上から見た二次元的なもの。
実戦で通用するバッターボックスの立ち位置を考える場合、バッターボックスの高低を考慮した三次元的でなければいけません。
このような発想に立てば、前の打者が掘った穴をそのまま使うことなど論外なのです。
プロ野球選手のようにはいかないアマチュア野球選手の事情
プロ野球選手の多くはバッターボックスに入ってから時間をかけて足場を作ります。
具体的には以下のことをやっています。
- 前の打者が掘った穴を埋める
- 自分の立ち位置に合った穴を掘る
これはバッターバックスの立ち位置を決める理想的な姿ですが、アマチュア野球選手には真似できません。
実際、ほとんどのアマチュア野球選手は前の打者が掘った穴を埋めず、ただ穴を掘るだけですからね。
なぜか?
これはアマチュア野球選手独特の事情が関係しているからです。
エンターテイメントであるプロ野球では打者がじっくり足場を作ることをある程度許されていますが、アマチュア野球選手は違います。
ゆっくり足場を作っていれば審判から、
早く構えなさい!
と注意されますからね。
このようにアマチュア野球選手は「素早く足場を作るよう催促される」という事情があるため、前の打者を掘った穴を埋めている時間が取れないのです。
ですので、「前の打者の穴を埋めた方が良い」ことを知っていても、それを実際の試合で行うことは非常に困難。
アマチュア野球選手はプロ野球選手とは異なる方法で、理想的なバッターボックスの立ち位置を決めなくてはいけません。
アマチュア野球選手は理想的な立ち位置を変えて対応する
アマチュア野球選手がバッターボックスに入るとき、やらなくてはいけないことをまとめると以下のようになります。
・自分にとって理想的な立ち位置を見つける
・前の打者が掘った穴(深い穴)を使わない
・素早さも要求される
これらを満たすためには、理想的な立ち位置について考え直す必要があります。
具体的に言うと、
- ホームベースとの距離はいつも一定とする(妥協しない)
- ピッチャーとの距離は穴を避けて決める(妥協する)
とすれば良いのです。
各々について、詳しく説明します。
ホームベースとの距離はいつも一定とする(妥協しない)
打者にとってホームベースとの距離はとても重要であり、打者にとって影響が大きい要素となります。
ホームベースとの距離はその選手の特性(腕の使い方やステップ)によって決まるもので、これを変えるということは打ち方を変えることになってしまいますからね。
さすがにそれは打者にとってリスクが大きすぎます。
それゆえ、この点に関しては妥協せず常に一定の距離となるようにします。
ピッチャーとの距離は穴を避けて決める(妥協する)
ピッチャーとの距離はホームベースとの距離に比べれば、打者にとって影響が小さい要素です。
と言うのも、打者はどこに立っていようがピッチャーが投げるボールに対しタイミングを合わせなくてはいけないためです。
ピッチャーは一定のタイミングで必ず同じ球種・球速で投げるわけじゃありませんよね?
もし、必ず一定のタイミング、同じ球種・球速で投げてくれるなら、同じ位置に立つことによってタイミングを合わせる精度が上がるでしょうが、現実は違います。
結局、ピッチャーとの距離を変えることはタイミングの合わせ方で対応ができることから、ホームベースとの距離を変えることに比べてリスクが低いのです。
このことより、ピッチャーとの距離は前の打者が掘った穴を避けて決めるべきです。
素早く「理想的な立ち位置」を見つける方法
ここでは、アマチュア野球選手に求められる「前の打者が掘った穴(深い穴)を避けつつ、理想的な立ち位置を素早く見つける」具体的な方法について説明します。
注意事項
ここで紹介する方法は私が現役時代、実際にやっていた内容です。選手によりスタンスや構え方、立ち位置など違いますので、細かな距離はあなたにあったものにカスタマイズして下さい。
また、私が使っていたバットの長さ=84cm、スパイクのサイズ=27.0cmですのでご参考に。
1.ホームベースの外側とバットの先端を合わせる
位置を求めるとき、長さが変化しないものを用いることが鉄則です。
と言うわけで、長さが固定されているホームベースとバットを用いて「ホームベースとの距離」を正確に測ります。
よくバッターボックスのラインを目安にホームベースとの距離を測る選手がいますが、人間がラインカーを用いて引いた線に過信は禁物!
曲がっていたり、わずかにずれていることがありますので基準としては不適格です。
ピッチャー経験者なら分かると思いますが、バッターボックスに入ってラインが真っ直ぐだと感じても、マウンドから見ると「ラインが曲がっているなぁ~」と感じることはよくありますし。
ちなみにNPB唯一となる三冠王に3度輝いた落合博満氏ですが、バッターボックスでの立ち位置のこだわりも強く、誤差を生じやすいホームベース寄りのバッターボックスのラインを足で消してから足場を固めていたのは有名な話です。
アマチュア野球でやれば間違いなく審判に怒られそうですが、少なくともバッターボックスのラインを基準に立ち位置を決めることは止めましょう!
2.グリップエンドのラインに軸足を置く
私の場合はバット(84cm)のグリップエンドのラインと、バックスイングの軸足(キャッチャー側の足)の中心が合うようにします。
このとき前の打者が掘った穴をさけることがポイント!
ピッチャー側に立つのか、真ん中なのか、キャッチャー寄よりなのかはピッチャーの球速や球種を考慮して決めます。
3.ピッチャー側の足を置く
軸足を置いたら、後はピッチャー側の足を置くだけです。
私の場合はややオープンスタンス気味に構えていましたので、キャッチャー側の足から半歩ずらしていました。
これらは私の場合の参考例ですが、ホームベースとバットを使えば、前の打者の掘った穴を避けつつ素早く安定的に同じ位置に立つことができますのでおすすめです。
素早く立ち位置を決められると打力が大幅アップする!
バッターボックスの立ち位置を素早く決めることができれば、ほとんどの選手は打力が大幅アップするはずです。
なぜなら、初球をはじめとする若いカウントの方が打者にとって有利であり、打てる確率が高くなるからです。
以下の表1は、2014年~2018年のプロ野球(NPB)におけるボールカウント別打撃成績をまとめたものですが、初球をはじめとする若いカウントでは打率が高くなる傾向があることが分かると思います。
表1 ボールカウント別の打撃成績
カウント 打率 長打率 0-0 .328 .343 0-1 .314 .324 0-2 .142 .148 1-0 .341 .345 1-1 .327 .332 1-2 .170 .177 2-0 .364 .365 2-1 .339 .340 2-2 .194 .119 3-0 .419 .948 3-1 .364 .722 3-2 .222 .461 ※1 2014-18年の日本プロ野球。インプレーのみ対象(出所)DELTA
※2 出典 日本経済新聞、カウントの力学「初球打ち」に再考の余地
キャッチャーの立場から考えると、配球を決める上で最も難しいのが初球です。何もストーリーが始まっていませんから当然ですね。
反対にストライクが先行すればするほど、ストライクで勝負せず際どいコースやボール球を使いやすくなります。
このように、初球をはじめとする若いカウントで打率が高くなる傾向にあることは、定性的にも説明がつくのです。
打者の立場から見れば、初球から打っていける準備ができているかどうかはとても重要であり、そのためにはバッターボックスに入ったら素早く立ち位置を決められるかが勝負。
記事冒頭で『特に初球から打つことが苦手な選手ほど効果的』と書いたのはこのためであり、実践すれば必ず打力がアップするでしょう。
最後に
この記事では、実戦で役立つバッターボックスの立ち位置について解説しました。
実際、この記事で紹介した内容は『打てる人』なら当たり前のようにやっていることなんですよね。
でも、打てない人にとっては当たり前ではありません。
私は高校・大学とキャッチャーをやっていましたので、それを嫌というほど見てきました。
打者がバッターボックスに入っている時間は、スタメンでフル出場する選手でも試合時間に対して微々たるもの。
しかし、キャッチャーはバッターボックスに近いところに守っていますから、試合が進むにつれて荒れていくバッターボックスを見続けています。
こんな荒れた状態の穴に軸足を置くのかよ・・・
と思わせる打者は本当に多いですから。
打者にとって確実にバットの芯で捉える技術や打球を遠くに飛ばす技術は一朝一夕ではありません。
しかし、バッターボックスの立ち位置を工夫してより良い状態を作ることは容易にできます。
あたなが、もし何も考えず前の打者が掘った穴を使う打者であれば今すぐそれを止め、この記事で解説した内容を実践してみてはいかがでしょうか?
- 初球から打っていける準備をすること!
- バッターボックスの立ち位置は素早く正確に!
- ホームベースとの距離は打者にとって影響が大きいため、当てにならないバッターボックスのラインから距離を測らないこと!
- 前の打者が掘った穴をそのまま使わないこと!