『バッティングの基本はセンター返し』と、監督やコーチから教わった人は多いと思います。
でも、なぜセンター返しがバッティングの基本なのか、その理由を教わった人は少ないのではないでしょうか。
・タイミングを合わせるため
・多少タイミングがずれても、フェアグランドに打球を飛ばすため
このような理由もありますが、物理的な理由もあるのです。
この記事では、センター返しがバッティングの基本である理由を物理的に解説したいと思います。
センター返しの打球速度
まず、センター返しをしたときの打球速度を物理的に説明します。
投手がストレートを投げ、打者がセンターに打ち返した場合をイメージして下さい。
図1 センター返しの打球速度
図1において、以下のように定義します。
VP・・・投手が投げるボールの速度
VB・・・打者のバットスピード
VH・・・打ち返した打球速度
尚、便宜上、バットとボールは弾性衝突とする。
この場合、打球速度は、以下のようになります。
打球速度 VH = VP+VB
センター返しではない場合の打球速度
次にセンター返しでない場合の打球速度について考えてみたいと思います。
投手が投げるボールに角度がついている場合です。
図2をご覧ください。
図2 投手が投げるボールに角度がついている場合
バットを水平に出し、その垂線に対し投手が投げるボールに角度θがついている場合です。
入射角がθですから、反射角もθとなります。このとき、打球速度VHはどのようになると思いますか?
ボールの速度VPはバットにぶつかって跳ね返っても変化しませんので、打球速度VHへそのまま寄与します。しかし、バットスピードVBはセンター方向へ向かっていますが、打球はセンターへ飛びません。
言い換えると、センター方向へ向けて力が向けられていても、その力の全てが打球へ伝わる訳じゃないんです。
ここで、バットスピードVBを打球方向に分解して考えてみます。
図3 バットスピードVBの分解
図3のように、VBはVByとVBxに分解することが出来ます。そして、打球方向へ寄与するのはVBxのみです。
VBxはVBcosθとなります。
図4 センター返しで無い場合の打球速度
以上の計算により、センター返しでない場合の打球速度VHは以下になります。
打球速度 VH = VP+VBcosθ
まだ分かり辛いと思いますので、次は具体例をあげて説明します。
センター返しではない打球速度の具体例
ここでは、極端に角度がついている場合を具体例として考えてみます。図5のように、45°の角度がついているボールを打ち返す場合です。
実際には角度45°と言うと、三塁線(or一塁線)からボールが来ることを意味していますので、こんなボールを投げる投手はいませんが・・・
図5 角度45°の投球を打ち返した場合の打球速度
この場合、
打球速度VH = VP+VB×1/√2
となります。
センター返しの打球速度=VP+VB
ですから、違いが分かると思います。
数値化するために、VP=1、VB=1とし、代入して計算してみます。
センター返しの打球速度 / センター返しでない打球速度
= VP+VB / (VP+VB×1/√2)
= 1+1 / (1+1×1/√2)
≒ 2 / 1.71
≒ 1.17
この結果から、以下のことが分かります。
センター返しの方が1.17倍、打球速度が速くなる
実際はボールの角度よりもバットの角度が重要
先ほどは、投手の投げるボールの角度を極端に45°としましたが、実際は45°なんてありえません。
右投手がマウンドのプレートの中心から、1m三塁方向にずれて投げた場合の角度は、計算上3°です。遅い球速で、かつ曲がりの鋭いカーブを投げたとしても10°も角度はつかないはずです。
それよりもバットの角度が及ぼす影響の方が大きいです。
図6のように、振り遅れた場合を考えてみます。
図6 振り遅れた場合の打球速度
図6から、投手が投げるボールの角度θaが小さくても、振り遅れた分の角度θbも影響しますので、その分打球速度は遅くなります。
フェアグランドは三塁側45°、一塁側45°ですから、投手が作り出せるボールの角度が10°に満たないとすると、バットの角度による影響の方が、大きいことが分かりますね。
結論:ボールの軌道に対し垂直になるようにバットをぶつける
これまでの説明をまとめると、以下のようになります。
打球速度を速めるためには・・・
ボールの軌道に対し、垂直になるようにバットをぶつける
投手が多く投げるボールはストレートです。そのストレートを打ち返す理想的な打球方向はセンターなんです。
そしてセンターへ打ち返した打球は速い。ゆえに、ヒットになりやすいのです。
以上のことが『バッティングの基本はセンター返し』である物理的な理由です。
球場の形状
どの球場もホームからセンターのフェンスまでの距離が一番長く、逆に両翼は一番短くなっています。
プロ野球の球場ではセンター120m、両翼100mくらいが多いです。これは、センターへの打球が一番伸びる(飛ぶ)事を表していると考えられます。
応用編① カーブ打ちの基本はライト狙いではない!
ここから応用編に入りたいと思います。
多くの指導者のみならず、プロ野球で高い実績を残した解説者が口をそろえて
カーブ打ちの基本はライトへ狙うことだ!
と言います。
学生野球でも、マシンを使ってカーブ打ちの練習をしますが、右投手が投げるカーブを右打者がライトに狙うことが一般常識になっています。
でも、残念ながら間違っています!
速い打球を打ちたければ、『ボールの軌道に垂直になるようにバットを出す』ことが基本なので、レフト方向へ打つことが基本なのです。
同様に、左投手が投げるカーブを右打者が打つ場合はライト方向が基本です。
実際は、たとえ球速の遅いカーブでも、作り出す角度はたいしたことは無いと思いますので、無理にレフトへ引っ張る必要は無く、センター返しを心がけるだけで良いと思いますが。
しかし、ライトを狙うことは物理的には間違っています。
例えば、以下の場面をイメージして下さい。
イメージ
右投手が右打者に、肩口から入る甘いカーブをスタンド上段に運ばれた
スタンド上段はどこがイメージできますか?レフト?ライト?
私ならレフト、左中間をイメージします。
逆に『肩口から入る甘いカーブを、基本通りライトスタンドに運んだ』なんて、あまり目にしませんよね。
そういったボールは引っ張ることが、物理的に最も速い打球を打つことが出来ますので当然なのです。
ひとこと
ここれは私の推測なのですが、球速が遅いカーブに対し、体が突っ込んで泳いでしまうのを防ぐ意味で『ライトを狙うつもりで打て』と言われていたものが、月日を重ねて言い伝えられるうちに、『ライトへ狙え』となったのではないかと思っています。
応用編② ファールの打ち方
次はファールの打ち方です。
ファールを意図して打とうとすると、必要以上にバットに角度をつける必要があると感じませんか?
右打者が一塁側にファールを打とうとして、一塁ベンチを狙うみたいな。
でも、実際は大した角度は必要ありません。上の説明で、振り遅れた分の角度θbが、25°もあればファールになります。実際はボールの回転(スライス回転)もありますので、もっと角度は浅くて良いかもしれません。
ファールを狙って打つことが苦手な人は『振り遅れる=空振り』が多いです。ファールを打つために、必要以上に角度をつけようとしてしまうことが原因なのです。
まとめ
バッティングの基本がセンター返しなのは、
センターへ打ち返した打球はよく飛ぶ=ヒットになりやすい
からなのです。
そして、その理由が分かれば、これまで常識とされていた『カーブはライトへ打つのが基本』が間違っていることも理解できると思います。フリーに打てる場面では、大げさに言えば『すべてバックスクリーンを狙う』打ち方が理想的なのです。
もちろん、バックスクリーンまで飛ばすことがイメージできない人はピッチャー返し、センター返しを狙っていいでしょう。そして、少し早めに振った結果がレフトへ、少し振り遅れた結果がライトへ打球が飛ぶのです。
ケースバッティングを除き、強い打球を打つためにレフトやライトを狙って打つことは非合理なんです。
実際の試合では、相手バッテリーがタイミングを外すように攻めてきます。決して、タイミングを合わせ易いように攻めてきません。
ですので、強い打球を打ちたければ、普段からセンターへ打ち返す意識を強く持って、練習に取り組む必要があるのです。