野球におけるピッチャー(投手)はチームの顔であり、出来不出来がそのままチーム勝敗に影響する最重要ポジションです。
次の対戦相手は〇〇チーム(学校)
と言われた瞬間、真っ先にピッチャーの顔を思い浮かべるくらいですからね。
この記事では、そんなピッチャー(投手)の役割と必要な能力について解説しつつ、経験者の立場から体験談も書きたいと思います。
ピッチャーの役割
ピッチャーの役割として最も重要なことは、打者に投球して失点を最小限に抑えることです。
ピッチャーの出来不出来はチームの勝敗に直結することから「野球の勝敗はピッチャーで7、8割決まる」と言われます。それゆえ、最も注目の集まる花形ポジションと言えるでしょう。
その一方、どんなに無残に打ち込まれたときでも、監督が交代を命じない限りマウンドに立ち続けなくてはいけない過酷なポジションでもあります。
そしてプロ・アマ問わず故障の多いポジションであり、とりわけ肩や肘を壊すピッチャーは後を絶ちません。
また、その他のピッチャーの役割として
- 牽制球を投げてランナーの盗塁を未然に防ぐ
- 9人目の野手として守備陣の一端を担う
もあり、これらも失点を防ぐうえで大切なプレーとなります。
ピッチャーに必要な能力
ピッチャーに必要な能力は主に以下のようなものが挙げられます。
- 制球力
- 打者が打ちにくいボールを投げる能力
- 冷静な判断力
- マウンド度胸
制球力
制球力の意味は2つあります。
まず1つ目は、ストライクゾーンにボールを投げ込めること。
そもそも、どんなに速いストレートや鋭い変化球を投げることが出来ても、ストライクゾーンに投げられなくては打者を抑える依然の話ですからね。
2つ目は、狙った箇所に投げ込めること。
これは打者が打ちにくいコースや狙っていないコースへ投げることで、アウトにする確率を高めるためです。
打者が打ちにくいボールを投げる能力
打者が打ちにくいボールを投げることが出来れば、打者をアウトにする確率が高まります。
では、打者が打ちにくいボールとはどんなボールでしょうか?
代表的なものは、『速いストレート』『鋭い変化球』です。
これらが顕著になればなるほど、打者にとって見慣れないボールとなりますので『打ちにくい』と感じます。
また『球速が遅いが伸びるボール』『球速が速いのに伸びないボール』など、打者が体験したことのない(または少ない)ボールであればあるほど打者は打ちにくく感じます。
図1 球速と回転数の関係
図1は球速と回転数の関係を示したグラフです。
一般的に球速が速くなるほど回転数が多くなり、球速が遅くなるほど回転数が少なくなります。これはプロだろうがアマチュアだろうが変わりません。
この理屈は簡単で、球速が速いピッチャーほど腕の振りによる遠心力が大きく、指先でボールを抑えようとする力も大きくなるので、その結果、ボールにかかるスピン量が多くなるからです。
これらを踏まえると以下のことが言えます。
- 図1の直線上または直線付近のボール=打ちやすいボール
- 図1の直線から離れたボール=打ちにくいボール
図1の直線上または直線付近のボールであるほど、打者が体験したことのある球質である可能性が高くなりますので、それに伴い打者が対応できる可能性も高まってしまいます。
反対に、図1の直線から離れたボールというのは珍しいボールですので、打者が体験したことのある球質である可能性が低くなり、その結果、打者が対応できる可能性も低くなり『打ちにくい』と感じます。
つまり『球速が遅いが伸びるボール』とは球速に対して回転数が多いボールのことであり、打者が経験から予測した伸びを上回る伸び方をするので『ホップしている』と感じ、打ちにくいボールとなります。
『球速が速いのに伸びないボール』とは球速に対して回転数が少ないボールのことであり、打者が経験から予測する伸び方をしないので『沈むボール』と感じ、打ちにくいボールとなります。
理屈は分かったけど、こんなピッチャーいるの?
と思う方もいると思いますが、例えば、ソフトバンクホークスの和田毅投手。
彼の投げるはストレートは140km/h前後とプロ野球選手の中では遅い方ですが、球速に対して回転数が多く、ホップ方向への変化量が大きいストレートを投げるため奪三振率の高いピッチャーなのです。
また、ニューヨーク・ヤンキースで長くクローザーとして活躍したマリアノ・リベラ投手も変わったボールを投げていた一人。
彼の代名詞と言えばカットボールですが、このボールは『曲がりが大きく、ストレートよりホップする』という特徴があります。
普通のピッチャーが投げる変化球はストレートよりホップすることなどなく、むしろ落ちる方が一般的です。
それに対しリベラ投手の投げる変化球(カットボール)はストレートよりホップしますので、極めて珍しい球質なのです。
だからこそ彼は「投球の8割はカットボール」と言われるほど偏った球種配分に関わらず、メジャーで超一流の成績を残し続けることができたのでしょう。
冷静な判断力
ピッチャーは安定した投球をするために、常に冷静な判断力が求められます。
狙ったところへボールを投げ込むためには、正確なリリースポイントを掴む必要がありますが、これはピッチャーの感覚に頼るところが大きいです。
その一方、ピッチャーはどんな環境や状況でも打者に投球しなくてはいけません。
ピッチャーを経験したことのある方なら分かると思いますが、『自分のピッチング』を阻害する要因は至るところに存在しているんですよね。
例えば、
- 『合わない』マウンドの形状
- 相手ピッチャーと自分の軸足の位置が異なり、穴の位置が気になる投げにくいマウンド
- 相手ピッチャーと自分の踏み出した足の位置が異なるため、穴の位置が気になるマウンド
- 風や雨などの天候
- 相手チームや観客のヤジ
- 体のだるさ等、自分のコンディションや調子
- 試合状況(得点差や野手のエラー)
などなど。
些細なことかもしれませんが、このような細かな環境や状況に対応するためには、客観的に自分を評価できる冷静な判断力が必要なのです。
マウンド度胸
マウンド度胸と言うと気合や根性論に聞こえるかもしれませんが、感情をコントロールして冷静な判断力を失わないようにするために必要な能力です。
マウンドに上がるピッチャーは冷静さが求められますので、感情の起伏を抑えようとします。
このとき、”嬉しさ” ”楽しさ” といった高ぶった気持ちを抑えることがは簡単ですが、落ち込んだ気持ち(意気消沈・自己嫌悪)をなだめることは難しいです。
その一方、ピッチャーはどんな状況でも打者に投球しなくてはいけませんから、『どうやって感情を盛り上げていくか?』がポイントになります。
このとき有効なのは、自責思考を止めて他責思考となること。
自責思考とは?
結果に対して自分に責任があると考える思考法
他責思考とは?
結果に対して他人に責任があると考える思考法
例えば、コントロールが定まらず3者連続フォアボールを出してしまった場合。
自責思考
やばいなぁ~ 野手は白けてるだろうなぁ・・・
何かがおかしい。自分の体にどこか不調があるかもしれない・・・
他責思考
悪いのは俺にピッチャーをやらせている監督!俺は精一杯やっている!
(野手に対し)ガタガタ言うなら、お前がピッチャーをやってみろ!
マウンド上では常に前を向いていないとやってられないポジションですので、自分を責めて落ち込みをより深くするのは得策ではありません。
このようなときほど、感情をフラットに保つために自分を責めるのを一旦止める術を持つべきなのです。
実際、プロ野球のピッチャーなどは唯我独尊・天真爛漫だと言われますし、常に高いパフォーマンスを発揮するために身につけたテクニックだと言えるでしょう。
ひとこと
念のため断っておきますが、他責思考はあくまで「思考」であり、言葉や態度で表さないようにしましょうね。
また、他人思考をする目的は不安要素を ”あえて” 矮小化させることにより、次のプレーに目を向けさせるためです。つまり、それはあくまでマウンド上でのことであり、マウンドを降りたら話は変わります。
不安要素の根本を解消するためには、その理由や原因を突き止めなくてはいけません。つまり、練習では自責思考でとことん考え抜くことが必要になるのです。
まとめると『自責思考=選手の成長を促すために必要な考え方』、『他責思考=自分を追い詰めず守るための考え方』であり、これらを上手く使い分けることがポイントになるのです。
三振を奪える「武器」を持て
ピッチャーが最も確実に打者をアウトにする方法は三振を奪うことです。
セイバーメトリクスおける投手評価指標でも奪三振は重視される項目であり、この理由はインプレー打球(グラウンド内に飛んだ打球)がアウトになるかヒットになるかは野手の守備力が大きく影響するためです。
実際に FIP(Fielding Independent Pitching=守備から独立した防御率)や tRA(true Runs Allowed=真の失点率)といったセイバーメトリクスで主流の指標はこの考え方に則っています。
これらのことから、三振を多く奪えるほど優秀なピッチャーと言えるのです。
そして、打者から三振を奪うためには何かしらの「武器」が必要になり、そのためには先程説明した『ピッチャーに必要な能力』を上げることが大切です。
何が「武器」になるかはピッチャー次第ですが、極論を言えば、打者が打ちにくいボールを投げることが一番です。
「速いストレート」「鋭い変化球」などは誰でも思いつくことですが、和田投手のような「遅いがホップするストレート」やリベラ投手のような「ストレートよりホップするカットボール」に代表される希少性の高い球質も効果的です。
もちろん、こういったことは一朝一夕にいくものではありませんが、ピッチャーとして「何を武器にするか?」を常に考え、それを習得するための努力を惜しんではいけません。
経験者から一言
私はピッチャーをやっていたのは中学2年から中学3年の引退まで(いわゆる自分達の代のエース)、あとは大学野球でも1試合だけ先発登板したこともあります。
それなりの試合数に登板していますので、良い結果(完封勝利)も悪い結果(サヨナラ押し出し負け)も経験しています。
記事冒頭で「ピッチャーは野球の花形ポジション」と書きましたが、まっさらなマウンドから見下ろす景色は特別なポジションであることを認識させられますし、一度はマウンドに上がりたいと思う野球選手が多いのもうなずけます。
その一方、勝敗を背負い続けるのは非常に苦しく、個人的には自己嫌悪の連続であり
もうピッチャーはやりたくない!
という気持ちの方が強いです。
これは私が相手を見下ろすだけの実力が無かったせいですが、多くのアマチュア野球のピッチャーは同じ苦しみと戦っているのではないでしょうか?
あと、ピッチャーは相手チームから野次の標的になりますので、それがつらいこともあります。
昔は今と違って野次り方も凄まじく、チーム(または観客)によっては人格を否定するような卑劣な野次を飛ばすこともあります。
ある試合でどうしても野次が我慢できず、相手チームに対し抗議するよう監督に訴えたのですが、
もっと強いチームと対戦すれば、こんな野次じゃすまんぞ!
と簡単にあしらわれ、泣く泣く我慢して投げ続けることになりました。
このときは本当に頭にきたので、投げそこなったフリをして相手ベンチにボールを投げ込んでやろうかと思いましたよ(もちろん踏みとどまりましたが)。
もちろんピッチャーをやっていて良いことも沢山あります。
打者から空振りを奪えば素直に嬉しいですし、完封などしようものなら自分を中心に世界が回っているような気分にさえなりますしね。
あと、これは良いことかどうか分かりませんが、高校入学時にまだ顔と名前が一致しない同級生から多くの声をかけられました。
君、〇〇中学でピッチャーやってた ryo 君だよね?
なんて感じで。
声をかけてきた同級生も中学で野球をやっていたらしく、どうも私の中学と対戦したことがあったので私のことを知っていたようです。
このときばかりは、良くも悪くも「チームの顔なんだなぁ」と再認識させられました。
いずれにしてもピッチャーはやりがいのあるポジションですし、目立ちたい人は是非おすすめいたします。