野球におけるファースト(一塁手)は捕球機会が極めて多いポジションです。
それゆえ他の野手とは異なり、ファーストミットと呼ばれる捕球に特化したミットを使うことが許されています。
この記事では、そんなファースト(一塁手)の役割と必要な能力について解説しつつ、経験者の立場から体験談も書きたいと思います。
ファーストの役割
ファーストの役割は打者走者をアウトにするために一塁ベースに入り、他の野手からの送球を捕球することです。
また、自らがゴロやフライを処理するのはもちろんのこと、ピッチャーからの牽制球を受けたり、カットマンになったりもします。
プロ野球では助っ人外国人や動きが悪くなったベテラン選手など、いわゆる「守備に難がある人」が守ることの多いポジションですが、細かい動きが沢山あるポジションでもあります。
- 送りバントの処理
- 長打のときは二塁ベースカバーに向かう
- ファーストゴロにおけるピッチャーとの連携
- 複数ランナーがいる場合に一塁ベースにつく・つかない
など、ファースト独特の動きが多くありますからね。
ファーストは送球する機会が少ないため、他の野手ほどフィールディング能力を求められません。
それゆえ、アマチュア野球ではピッチャーが登板しない試合でファーストを守ったり、打力を買われたキャッチャーや外野手がコンバートされることの多いポジションでもあります。
ファーストは内野手として最も技術が求められる「捕球→送球」といった一連の動きが未熟でも、捕球さえしっかりしていれば何とか格好がつきますからね。
また、ファーストはチームの窓口的な役割を担うこともあります。
デッドボールで出塁した打者に対しては帽子を取って謝るのがマナーですし、『丈夫ですか?』と声をかけたりすることもあります。
ピッチャーが謝っているのに、なぜファーストも謝るの?
と思うかもしれませんが、デッドボール直後にピッチャーが頭を下げて謝っていても打者は痛さでピッチャーを見ている余裕が無いことが多いんですよね。
たいして痛くないときでも、『ピッチャーを見る=ピッチャーを睨みつける』と捉えられる場合もありますので、あえてピッチャーを見ない打者もいますし。
一塁に向かい終わった状況であれば打者も落ち着いていますので、確実に謝ることができます。
これはスポーツマンシップに則っているだけでなく、
相手から余計な反感を買わない
という点でも大切なことです。
戦っている相手は感情のある人間であり、余計な反感を買って相手のやる気を増大させることは得策ではありませんから。
ファーストに必要な能力
ファーストに必要な能力としては、『高い捕球能力』と『機転が効くこと』が挙げられます。
高い捕球能力
ファーストは捕球する機会が多いポジションですので、高い捕球能力が求められます。
野手からの送球は必ずしもファーストが取り易いとは限りません。ショートバウンドやハーフバウンドしてしまう送球もありうります。
これらの送球を捕球できるかどうかはファーストの捕球能力にかかっていますし、アウト・セーフを決めるプレーゆえ試合展開を左右しかねません。
それゆえファーストは、少年野球や草野球など守備レベルの低いチーム(リーグ)では上手い人が守ることが多く、高校・大学・社会人・プロ野手と守備レベルが高くなるにつれて、守備力より打力重視で選ばれることが多くなるポジションです。
機転が利く
ファーストは機転が利くプレイヤーであることが求められます。
端的に言えば、
野球をよく知っており、状況に応じて素早く適切な行動がとれる
ことが求められるのです。ここでは、いくつか例を挙げて説明します。
【例1】ゴロに飛び出すべきか?
ランナーがいない状況で、ファーストが一二塁間に飛んだ緩いゴロを捕りに行くべきかどうかの判断は難しいです。
ファーストがゴロを捕りに行った場合は一塁ベースにピッチャーもしくはセカンドが入りますが、投げる方もボールを捕る方も動きながらのプレーとなるのでミスが起こりやすくなります。
ファーストがゴロを捕りに行かずセカンドに任せた場合、緩い打球ゆえ内野安打になってしまう可能性があります。
このようなリスクを天秤にかけつつ
- 打者の走力
- セカンドの位置
- 打球の強弱と転がった位置
を総合的かつ瞬時に判断し、ゴロを捕りに行くべきかどうかを決断しなくてはいけません。
【例2】ダブルプレーをどうやって狙う?
ランナー一塁でのファーストゴロダブルプレーは記事「【ランナー一塁】ファーストゴロの処理と各ポジションのカバーリング動作」で解説したとおり、
- 打球が強く捕球位置が一塁ベースの近くの場合、一塁ベースを踏んで二塁へ送球(3-6)
- 打球が緩かったり、捕球位置が一塁ベースから離れている場合、二塁へ送球(3-6-3または3-6-1)
が基本となりますが、実際の試合ではこれに試合展開を加味したプレーが求められます。
例えば、
- 1点を争っている試合終盤、捕球位置が一塁ベースに近くても、二塁へ送球して一塁ランナーを確実にアウトにすることを優先する(ダブルプレーに失敗した場合、一塁ランナーが二塁に残るため)。
- 得点差に余裕がある場合、無理にダブルプレーを狙わず、確実に一塁で打者走者をアウトにする。
など。
どこに送球するかはキャッチャーが指示を出しますが、キャッチャーの指示を聞いてから判断するようでは間に合わないこともあり、ファースト自らが判断することも大切です。
そのためにも飛んでくる打球とそれに対する動きを想定し、慌てずプレーできる環境を整えておく必要があります。
【例3】キャッチャーの牽制球にどう備える?
ランナーが一塁にいるとき、ピッチャーの投球を捕球したキャッチャーが一塁へ牽制球を投げることがあります。
このプレーはキャッチャーの任意だと思われがちですが、実は牽制球を受けるファーストとの共同作業なのです。
あの一塁ランナー、帰塁が遅いのでアウトにできそうだな・・・
と感じたキャッチャーが、ファーストに対しアイコンタクト等で『次、チャンスがあれば投げるぞ』と注意を促します(相手に気付かれないように)。
とは言っても、次の投球後にキャッチャーが必ず牽制球を投げるわけではありませんので、ファーストはいつくるかわからない牽制球に対して備えなくてはいけません。
同時に一塁ランナーに警戒されないように振舞う必要もあり、一塁ランナーとキャッチャーの動きに注意を払ったうえで「動と静」を使い分けた動きが要求されます。
【例4】一打逆転の大ピンチ!この状況でもライトゴロを狙えるか?
ランナー二塁でライト前ヒットの場合、ファーストはライトからのバックホームに対するカットマンになります。
では、1点リードで迎えた8回裏2アウトランナー2・3塁の場面でライト正面への強い打球のヒットを打たれた場合、ファーストはどのように動くべきでしょうか?
ここでの状況を詳しく解説すると、ライトは逆転のランナーである二塁ランナーの本塁生還を阻止するため定位置より前に守ります。そしてバックホームはカットマンへ送球するのではなくノーカットが基本です。
これらを踏まえると、ファーストはカットマンになるのではなく、一塁ベースに入ってライトゴロも狙える状況を作る方が合理的です。
「ライトが前に守っている」「正面への強い打球」を考慮するとライトゴロを狙う絶好のチャンスですし、ライトゴロが成立すれば三塁ランナーのホームインも阻止できるビッグプレーとなります。
もしライトがライトゴロを狙わずバックホームした場合でも、そもそもノーカットが基本ですからカットマン不在は大きな問題になりません。
二塁ランナーが三塁で止まった場合でも、ライトの守備位置と打球の強さを考えれば、打者走者が二塁へ進む可能性は限りなく低いでしょう。そもそも1点を争う状況では、仮に打者走者が二塁へ進塁したところで大きな問題ではありませんし。
これらのことをまとめると、この場面でファーストが一塁ベースに入り『ライトゴロ or バックホーム』という2つの選択肢を作った方がよいのです。
これらの例を見て分かるとおり、ファーストは他の選手との連携が多いポジションであり、状況に応じたプレーが求められます。
そのためにもセオリーや基本を理解したうえで、試合展開や状況に応じた動きを想定しておくことが大切です。
巧みな捕球力で内野の守備率を上げろ!
ファーストの捕球能力は他の内野手の守備率に影響します。基本的に野手の送球がバウンドした場合、送球した方に失策が記録されるからです。
それゆえファーストが届く範囲の送球を高い確率で捕ることができれば、他の内野手の守備率は確実に上がります。
またファーストの捕球能力は送球する内野手のメンタルにも影響を与えます。
捕球能力が低い場合、
捕りやすい場所に投げないと・・・
とプレッシャーを感じ、投げにくくなってしまうからです。
経験者から一言
私は大学1年から大学2年の夏までファーストのレギュラーとして試合に出ていました。あとは高校野球で数試合の出場経験があるくらいです。
基本的に高校・大学はキャッチャーとして出場していた私ですが、この1年に限ってはチーム事情でファーストを守っていました。
キャッチャーをやっていたので捕球に関しては自信がありましたし、小学・中学ではサードを守っていましたのでフィールディングに困ることもなく楽しく守っていた記憶しかありません。
先輩のファーストミットを借りて試合に出ていましたが、ファーストミットの取りやすさには驚きましたね。
それまで使っていたキャッチャーミットはゴロやフライを捕りにくいので、その分ファーストミットの取りやすさを感じたのかもしれません。
ファーストミットを使っていると、
ショートバウンドやハーフバウンドを捕球できないのはファーストの責任じゃね?
と思えるくらいでしたから(実際、今でもそう思っています)。
ファーストとして試合に出ていたのはわずか1年間ですが、野手の送球を弾いたり落としたりした記憶はありません。
また、比較的苦手な人が多いファースト後方へ飛んだ一塁スタンド方向へ切れていくファールフライも得意でした。
しかし、私の野球人生で忘れることのできない怪我を負ったのもファーストの守備のときでした・・・
ある試合でファースト後方へ飛んだ一塁スタンド方向へ切れていくファールフライが飛んできたのですが、私は一塁側ブルペンのマウンド傾斜に注意を払う余裕を見せつつ落下点に向かいました。
そしてファールフライの落下点に入ったと思った瞬間、膝から力が抜けていくように体が崩れていったのです。
結果はもちろん落球・・・と言うか打球に触れることもできませんした。
落とし穴にはまったような何とも言えない気分だったのですが、起き上がろうとしても自力で動けなかったのです!
このときになって、私はようやく左足の強烈な痛みに気付きました。
とてもプレーを続けれれる状態ではなく、ベンチの仲間に肩を借りながらそのまま交代。試合後、病院に行ってみると『半月板損傷及び前十字靭帯損傷』とのことでした。
一塁側ブルペンの傾斜に注意を払う余裕があった私がなぜこのような怪我を負ってしまったのか?
その理由は、マウンド後方の傾斜を甘く見積もっていたことです。
ボールを追いながらブルペンのホームからマウンドの頂点に至る傾斜は目視で確認したのですが、マウンドの頂点以後(マウンド後方)の傾斜に関しては目視ではなく『何となく』という感覚に頼ってしまったのです。
私の感覚ではそれなりに緩やかな傾斜だと思っていのですが、実際は急勾配であり、その結果足を踏み外して着地に失敗したことが怪我の原因です。
こんな怪我、すぐに完治するだろ
という私の目論見は外れ、数年間は左膝をサポーターで固定しながらのプレーとなりました。
特に寒い時期になると日常生活でも左膝が痛むことがあり、その度に憂鬱な気持ちになったことを覚えています。
こんな怪我を負った私ですが、それでもファーストいうポジションが嫌いではありません。
なぜならファーストはボールに触る機会が多いので『試合に参加している』という感覚が強く、充実感のあるポジションだからです。
打力重視と思われがちなファーストですが、目に見える役割以外にもやるべきことが多く、見た目より難しいポジションと言えるでしょう。