守備では素早い送球が求められる場面が多く、状況によってはジャンピングスローやランニングスローで投げることがあります。
ランニングスローはプロ・アマ問わず当たり前の送球方法として認知されていますが、ジャンピングスローは日本球界ではあまり馴染みが無く、やるのはせいぜいプロ野球選手くらいなもので、アマチュア野球選手にとっては御法度なプレーと言えるでしょう。
ここで以下のような疑問が湧きませんか?
- どうしてジャンピングスローはやってはいけないと言われるのか?
- ジャンピングスローで投げる場面なんてあるの?
- ランニングスローで投げる場面は?
この記事ではそのような疑問に答えつつ、ジャンピングスローやランニングスローのやり方やコツを解説したいと思います。
ランニングスロー・ジャンピングスローとは?
図1 ランニングスロー・ジャンピングスロー
ランニングスローとは走りながら送球することであり、ジャンピングスローとはジャンプしながら送球することです。
ランニングスローとジャンピングスローは全く違う動きに見えますが、腕の使い方はスナップスローの応用であり、その観点から見ればこれらは親戚のようなものです。
スナップスローのやり方
スナップスローのやり方は記事「スナップスローで強いボールを投げるコツ!腕の使い方を理解して正しい投げ方をマスターしよう!」で詳しく解説しましたが、スナップスローはランニングスローとジャンピングスローを語る上で欠かせない技術ですので、ここでも簡単に説明します。
図2 スナップスローのやり方
1.投球腕の内捻
投球腕を内捻しながらボールを持っている手(図2の右手)を耳に近づけます。
2.さらに投球腕を内捻する(テイクバック完了)
内捻した投球腕を右肘から右手に捻りをもう一度入れ直します。
これにより背筋をより収縮させることができ、強いボールを投げる原動力となります。
3.右肘を右手首より先行させる
右肘を右手首より先行させてスイングさせます。
このような投げ方をレイトスローイングといい、手に力がタメられた状態で投げますので、威力のあるボールを投げることが出来るのです。
コツとしては、ボールを持っている右手を残しておくような感じで、右肘を抜いて投げることです。
手首に力が入りっぱなしになってしまうとこのような投げ方ができず、悪い投げ方(アーム投げ)になってしまいますから注意しましょう。
4.スナップを利かしてリリースする
バックスピンの効いた強いボールを投げるために、スナップを利かしてリリースします。
とは言っても、特別な動作をする訳ではなくピッチャーの投球動作と原理は全く同じです。
コツとしては、以下のような指先の使い方と力の入れ方をすることです。
バックスピンが増すリリースのコツ
< 指先の使い方 >
指の付け根 → 第二関節 → 第一関節 → 指先、の順番でボールを離すこと
< 力の入れ方 >
指先に力を入れるタイミングは、リリースポイントの一瞬のみ。
ランニングスローで投げる場面と投げ方のコツ
ランニングスローとは走りながら送球することであり、具体的には、打球に対してチャージしながら捕球し、その勢いのまま送球します。
ランナーをアウトにするための時間的余裕がある場合なら、捕球体勢を一旦整えた上でしっかりステップを踏んで送球すれば良いのですが、そのような時間的余裕がない場合は素早く送球するためにランニングスローで投げるのです。
ランニングスローで投げる場面
ランニングスローで投げる場面は、以下の通りです。
- ランナーをアウトにするための時間的余裕がない
- 投げる距離が短い
- 走っている方向と送球する方向が近い
例えば、サードやショート前に転がったボテボテのゴロを捕球した後の一塁送球やランダウンプレーでの送球などです。
図3 ボテボテのショートゴロ⇒ランニングスロー
ランニングスローの投げ方とコツ
ランニングスローは素早さに特化した投げ方ですので、テイクバックを浅くしたスナップスロー(図2における1と2を簡略化する)です。
テイクバックを浅くすれば、送球までの時間を短縮することができますからね。
ただし、テイクバックを浅くした弊害として強いボールを投げることが難しくなりますので、
- 右肘を右手首より先行させてスイングさせる(右投げの場合)(図2の3.)
- スナップを利かしてリリースする(図2の4.)
をより意識し、テイクバックを浅くした弊害を最小限に留めることが大切です。
コツとしては、ボールを持っている手に力を入れず肘をしっかり抜くこと。
送球を焦ってしまうとボールを持っている手に力が入ってしまい、投球腕のスイングが鈍くなってしまうので注意しましょう。
ジャンピングスローで投げる場面と投げ方のコツ
ジャンピングスローとはジャンプしながら送球することであり、一見するとアクロバティックな『魅せるプレー』と思われがちです。
確かにそういった一面もあるのですが、実は合理的な理由もあるのです(後ほど説明します)。
ジャンピングスローで投げる場面
ジャンピングスローで投げる場面は、以下の通りです。
- ランナーをアウトにするための時間的余裕がない
- 投げる距離が長い
- 捕球に向かっている方向と送球する方向が全然違う
- バックハンドキャッチ(逆シングル)で捕球している
- 捕球した勢いで体が流れている
例えば、図4のように三遊間に転がった深めのショートゴロを捕球した後の一塁または二塁送球、センター前に抜けそうなセカンドゴロを捕球した後の一塁送球ですね。
図4 三遊間の深いショートゴロ⇒ジャンピングスロー
ジャンピングスローで投げる合理的な理由
ジャンピングスローの投げ方を解説する前に、ジャンピングスローで投げる合理的な理由を説明します。
強いボールを投げるための時間稼ぎ
例えば、三遊間の深いところに転がったゴロをショートがバックハンド(逆シングル)でキャッチしたものの、勢いがつきすぎて三塁方向へ体が流れていたとします。
この状態で送球しようとしても、体が倒れそうになっているのでテイクバックを深くとる時間がとれません。
ランニングスローのようにテイクバックを浅くすれば送球できないこともありませんが、強いボールを投げることができずヘロヘロ球の送球になってしまうことは目に見えています。
これを解決するために、あえてジャンプしテイクバックを深くとるための時間を稼ぐのです。
そうすることで強いボールを投げることができ、長い送球距離に対応することができます。
怪我防止
捕球した勢いで体が流れている場合、それに対抗しようとして踏ん張ると、片脚(先程のショートの例で言えば右脚)に体重がかかってしまい、怪我をしてしまうことがあります。
実際、スパイクの歯が地面に食い込んでいると足首が引っかかった状態になって、結構危ないんですよね。
それを防ぐために、あえてジャンプすれば受け流すことができます。
ジャンピングスローの投げ方とコツ
ポイントはただ一つ。
ジャンプしたときにテイクバックを深くとり(図2における1と2)、強いボールを投げられる状態を作ることです。
ジャンプしたのにテイクバックが浅ければ、全く意味がありませんから注意しましょうね。
「ジャンピングスロー」VS「踏ん張りながら送球」
図5 踏ん張ってオープンハンドキャッチしている様子
昔からジャンピングスローの話になると、
ジャンピングスローなんて無駄なプレー。踏ん張って投げた方が早いよ!
肩が強いならジャンピングスローはアリ!でも肩の弱い日本人じゃ無理!
という意見を耳にします。
しかし、これは全体の流れを包括的に見ておらず、物事を局所的に見てしまっている考え方なんですよね。
そもそも、
- ジャンピングスローをする前提はバックハンドキャッチ
- 踏ん張りながら送球する前提はオープンハンドキャッチ
であり、これらを含めた上で比較しないと意味がありません。
ジャンピングスローの投げ方は先程説明しましたので省きますが、踏ん張りながらの送球はオープンハンドでキャッチしつつ、捕球した勢いに対抗しながら素早くスナップスローでボールを投げることです。
このとき3つのデメリットが生じます。
オープンハンドキャッチとは?
写真1 オープンハンドキャッチ
オープンハンドキャッチとは、グラブをはめている手や腕を外捻して捕球する方法です。
ゴロの場合、体の正面~グラブ側の打球に対して用いられます。
オープンハンドキャッチとバックハンドキャッチについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参考に。
【デメリット1】回り込む分、時間がかかる
オープンハンドで捕球するためには、打球に対して回り込んで正面に入る必要があります。
その分時間がかかり、塁上にいるランナーや打者走者をアウトにする可能性が低下します。
【デメリット2】送球に時間がかかる
オープンハンドキャッチは必ず腕を外捻しながらボールを捕ります。一方、送球するときは腕を内捻しなくては強いボールが投げられません。
つまり、オープンハンドで捕球したときの腕の動きは『外捻⇒内捻』となり、その分時間がかかるのです。
それに対しバックハンドキャッチの場合、腕を内捻しながらボールを捕りますので、腕の動きが『内捻⇒内捻』となり、素早い送球ができます。
【デメリット3】強いボールが投げづらい
踏ん張る=捕球した勢いに対抗することですが、それでも慣性によって体が流されますので、ステップを踏んで強いボールを投げられるわけではありません。
ちなみに踏ん張るときって両脚を広げて重心を下げるでしょ?
これは『重心が下がった方が物体を動かしづらい』という物理法則から言って合理的な体の使い方であり、両脚を広げて重心を下げた方がより踏ん張れるのです。
一方、送球時に重心が下がったままだと十分な体重移動ができません。これも上記の物理法則から言って当然のことです。
すなわち、『踏ん張って素早く投げるという状況=強いボールが投げづらい状態』であることは物理法則から明らかなのです。
結局、踏ん張った時点でノーステップのスナップスローで投げるほか無く、ジャンピングスローに比べて強いボールを投げられるわけではないのです。
これらのデメリットを考慮すると、三遊間の深いところに転がったゴロなどでは、捕球はバックハンドキャッチを前提として体勢によって踏ん張って投げる or ジャンピングスローを選択することが合理的です。
オープンハンドキャッチ⇒踏ん張りながら送球することは、最も時間がかかり、かつ強いボールを投げられないプレーであり、非合理的なプレーと言えるでしょう。
まとめ
ランニングスローはもちろんのことジャンピングスローも野球選手であればマスターすべき技術です。
特にジャンピングスローはその見た目の派手さから敬遠される傾向が強く(特にアマチュア野球)、野球経験者でもジャンピングスローの指導を受けたことのない人や練習したことがない人は多いのではないでしょうか。
しかし、実際は合理性のある投げ方であり、特定の場面では大きなメリットがあるのです。
今回の内容は選手の方はもちろんのこと、指導者の方にこそ理解して頂きたい内容であり、ジャンピングスローを理解して選手に指導できるようになって欲しいと思います。