みなさんはピッチャーが投げる魔球 ”シャインボール” ”マッドボール” ”エメリーボール” ”スピットボール” をご存知でしょうか?
実はこれ、すべて公認野球規則の中で『投手の禁止事項』として定められてる ”やってはいけない投球” なのです。
ある意味、魔球になりうる可能性も秘めていますが、ルール上禁止されていますので絶対に試合で投げてはいけません。
この記事ではこれらのボールについて詳しく解説し、ペナルティについても説明します。
ルールを遵守するためにはしっかり禁止事項を知っておくことが大切ですので、ピッチャーをやっている方や監督・コーチなど選手を指導する立場の方はぜひ覚えて欲しい内容となっています。
シャインボール
”シャインボール” と聞くと、なんだか明るく輝いているような感じで、いかにも野球漫画の主人公が投げる魔球みたいなネーミングですが、ルール上禁止されているボールです。
これは摩擦ですべすべにしたボールのことで、使いすぎて磨り減ったボールが代表的なものになります。
ボールの凹凸がなくなるほど磨り減ったボールを投げると、空気抵抗が変わって不規則な変化をすることがありますので禁止されているのです。
現代野球では試合中にボールの交換が頻繁に行われますので、意図的には当然のこと偶然でも起こりえないでしょう。
物(野球道具)が不足していたときには必要なルールだったのでしょうね。
マッドボール
”マッドボール” と聞くと『なんだか悪そうなボールだなぁ』と感じませんか?
マッドサイエンス的なダークなイメージを持つかもしれませんが、その場合のマッドはmadで『狂った、ばかげた』という意味であり、マッドボールのマッドはmudで『泥』という意味です。
つまり、マッドボール(mud ball)とは滑り止めとしてグラウンドの土や泥をつけて投げるボールのことです。
ロジンバッグ(滑り止め剤)があるのに?と思いがちですが、粒子が大きい土(砂)の方がグリップしやすいですし、ボールに傷をつけて変化球を投げやすくすることもできますので禁止されているのです。
このマッドボール、意外とアマチュア野球で見ることがあります。もちろん意図的ではなく、無意識でやってしまったケースがほとんどだと思いますが。
アマチュア野球では金属バットを使用することが多いですが、結構手汗で滑るんです。金属バットはグリップ力を増すためのグリップテープが巻かれていますが、手汗が酷いとそれでも滑ります。
バッティンググローブを使用すれば解決しますが、素手で打つことを好む選手もいますし、それこそ昔はバッティンググローブの使用は認められなかったんですよ。
それを解決するために、打席付近の土を手につけて滑り止めにする選手は意外と多いのです。(私は手が汚れるの嫌でしたのでほとんどやりませんでしたが)。
もちろん打者がこれをやってもルール違反ではありません。
しかし、こういったことが癖になっている選手がピッチャーをやると、同じような感じでついマウンドの土をつけてしまうのですよ。
ですので、どちらかというとマウンドに慣れているエースクラスのピッチャーより、比較的経験が少ないピッチャー(特に急造ピッチャー)に多く、しばしば審判に注意を受けている場面を目にしました。
エメリーボール
”エメリーボール” と聞くと、本当にそんな変化球がありそうな感じがしますね。
エメリー(emery)とは『金剛砂(研磨材)』のことで、ヤスリでボールの表面を削ったり、カミソリでボールに傷をつけたりして投げるボールをエメリーボールといいます。
こうして投げるボールは指に引っかかりやすくなり、いつもより強い回転をボールに与えることが可能になります。
さらに空気抵抗が増えることにより、よりブレーキが利いたキレのよい変化球を投げることができるのです。
エメリーボールは意図的にやらないとできませんので、かなり悪質な部類に入りますね。
スピットボール
”スピットボール” と聞くと『落ちる変化球かな?』とスプリットと勘違いしそうになります。
スピット(spit)とは『唾を吐く』という意味で、指やボールに唾を付けて投げるボールをスピットボールといいます。
また、唾だけでなく松やに・歯磨き粉・ワセリン・ジェル・クリームなどの粘液をつけて投げるボールもスピットボールと呼ばれます。
これらはボールを滑りやすくして回転数を減らした変化球を投げる場合や、ボールが滑らないようにグリップ力を増した変化球を投げる場合があります。
いずれにしてもスピットボールは仕込みやすいわりに効果が絶大なので、よく行われる不正投球と言えると同時に、かなり悪質なものと言えるでしょう。
実はこのスピットボール、MLBでは1920年まで不正ではなく禁止されていませんでした。
違反した場合のペナルティ
”シャインボール” ”マッドボール” ”エメリーボール” ”スピットボール” を使った場合、それ相応のペナルティが課せられます。
そのペナルティを説明する前に、これらのボールがルール上どのように区分けされているか整理してみます。
投手の反則行為
公認野球規則 6.02 投手の反則行為
(a)ボーク
~略~
(b)反則投球
~略~
(c)投手の禁止事項
(1)略
(2)ボール、投球する手またはグラブに唾液をつけること。
(3)ボールをグラブ、身体、着衣で摩擦すること。
(4)ボールに異物をつけること。
(5)どんな方法であっても、ボールに傷をつけること。
(6)(2)~(5)項で規定されている方法で傷つけたボール、いわゆるシャインボール、スピットボール、マッドボール、あるいはエメリーボールを投球すること。ただし、投手は素手でボールを摩擦することは許される。
(7)投手がいかなる異物でも、身体につけたり、所持すること。
(8)略
(9)略
<引用> 2019 Official Baseball Rules 公認野球規則(日本プロフェッショナル野球組織・全日本野球協会)
(a)ボークとは塁上に走者がいる状況で、ピッチャーがルール禁止された投球や牽制球を行うことです。
簡単に言えば、ずるいことをして打者や走者に対し不利にさせるのはダメだと定めたルールですね。
(b)反則投球とは塁上に走者がいない状況で、ピッチャーがルール上禁止された投球を行うことです。
ややこしいですが、塁上に走者がいる状況でピッチャーが反則投球をすればボークになります。
これらに対し、(c)投手の禁止事項は意図的でかつ危険、または悪質な行為を禁止している内容なっていることが特徴であり、この中に”シャインボール” ”マッドボール” ”エメリーボール” ”スピットボール” は含まれているのです。
ペナルティ
ピッチャーが ”シャインボール” ”マッドボール” ”エメリーボール” ”スピットボール” を使用・投球し、審判がそれを確認した場合、以下のようなペナルティが課せられます。
公認野球規則 6.02 投手の反則行為
(d)ペナルティ
投手が(c)項(2)~(7)に違反した場合、球審は次のような処置をしなけらばならない。
(1)投手はただちに試合から除かれ、自動的に出場停止となる。マイナーリーグでは、自動的に10試合の出場停止となる。
(2)球審が違反を宣告したにもかかわらずプレイが続けられたときには、攻撃側の監督は、そのプレイが終ってからただちにそのプレイを生かす旨、球審に通告することができる。ただし、打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達し、しかも他の全走者が次塁に達するか、元の塁にとどまっていた(次塁に達するまでにアウトにならなかった)ときには、反則とは関係なくプレイは続けられる。
(3)(2)項の場合でも、投手の反則行為は消滅せず、(1)項のペナルティは適用される。
(4)攻撃側の監督がそのプレイを生かすことを選択しなかった場合は、球審は走者がいなければボールを宣告し、走者がいればボークとなる。
(5)投手が各項に違反したかどうかについては、審判員が唯一の決定者である。
【注】アマチュア野球では、本項のペナルティを適用せず、1度警告を発した後、なおこのような行為が継続されたときには、その投手を試合から除く。
公認野球規則ではこのようにペナルティを定めていますが、所属団体によっては個別にペナルティを課すこともあります。
まとめ
この記事で紹介した『投手の禁止事項』ですが、日本とアメリカ、とりわけNPB(日本プロ野球)とMLB(メジャーリーグ)では大きな温度差があります。
NPBではやる選手がほとんどいないと言われていますし、それはアマチュア選手も同様です。
それに対しMLBでは多くの選手が ”公然の秘密” としてやっていると言われています。事実、引退した元メジャーリーガーが不正投球をやっていたことを公言した例もありますからね。
昔からMLBのピッチャーは『打てないボールを開発すれば、そのボールを延々と投げ続ければいい!』といったような風潮がありますので、その考え方の延長線上に不正投球があるかもしれません。
日本のピッチャーはきわどいコースや緩急といった配球、いわばシナリオを重視する傾向が強いので、特定の球種にこだわらないことから不正投球が少ないのかもしれません。
いずれにしても、このようなところにも『野球とベースボールの違い』があるのは間違いありませんが、ルール上禁止されているボールを投げることはアンフェアですので絶対に止めましょうね。