野球でスライディングは欠かせない走塁技術ですが、何となく使っている人も多いのではないでしょうか?
一言で”スライディング”と言っても様々な種類があり、用途にあったスライディングを使い分けるべきです。
その方が効果が高まることもありますし、怪我の予防にも繋がりますからね。
この記事ではスライディングの種類や用途、そのコツを詳細に解説します。
スライディングの目的
野球においてランナーがスライディングする目的はいくつかあります。
スライディングの目的
- 塁を踏み越えてオーバーランしないため
- 確実に減速するため
- 野手に簡単にタッチされないため
- 野手のタッチをかわすため
- ダブルプレーを防ぐため
ランナーは目的にあったスライディングを使い分ける必要があります。
この記事ではスライディングの種類や用途、そのコツを解説したいと思います。
一般的なスライディング
図1 一般的なスライディング
図1は一般的なスライディングです。
ストレートライディング、フットファーストスライディングと言うこともあります。
やり方とコツ
図1のようにどちらか一方の脚を伸ばして、一方の脚を折りたたみながら、臀部から太ももで滑ります。
コツとしてはベースの近くで滑り込まないことです。これは全てのスライディングに共通することです。
ベース近くで滑り込むと勢いがありすぎて、触塁した衝撃で膝を怪我する場合があるからです。もちろんベースから離れすぎてもいけませんから、練習でどのくらいの距離から滑り込めば良いか感覚を掴みましょう。
使うべき状況
主に『オーバーランしない』『確実に減速する』ことが目的です。
アウトかセーフか微妙なタイミングでは、このスライディングから派生したスライディングを使うことになりますので、ある程度アウト・セーフが分かる場面で使うことになります。
外野を抜ける長打を放ち、三塁打を目指し全力疾走しつつも、相手野手の返球が遅くなりタイミング的にセーフと確信していても、確実に減速かつ触塁するためにスライディングする、などですね。
ポップアップスライディング
図2 ポップアップスライディング
一般的なスライディング同様の滑り方ですが、違いは素早く塁上に立ち上がるスライディングです。
スタンドアップスライディングとも言われます。
やり方とコツ
やり方は一般的なスライディング後、図2のように塁上に立ち上がるだけです。
コツは折りたたんだ方の脚で反動をとり、もう一方の足はカカトからつま先へ体重を移動することです。
これによりスムーズな動きになります。
使うべき状況
相手野手の返球が来ずに、次の塁を狙う場合や状況を確認するときに使います。
ですので、必ずセーフになるタイミング、かつ相手野手による送球が来ていないときに使うことになります。
野手が塁上におり、送球に備えている場合は使ってはいけません。
立ち上がった反動で、自分の頭が相手野手の顔面にぶつかることもあるからです。
フックスライディング
図3 フックスライディング
図3はフックスライディングです。一般的なスライディングの応用です。
やり方とコツ
一方の足をベースに引っ掛けるように触塁するスライディングです。
コツは送球と反対方向へ体を流し、タッチを避けるように滑ることです。
タッチプレーにおいて、野手はボールとランナーを同時にケアする必要があります。送球がそれると、野手の視線がボールにいってしまいタッチが甘くなりがちです。
その結果、野手が動きの大きい体へタッチを試みる場合もあることから、ランナーが送球と反対方向へ体を流すことは有効な手段となるのです。
使うべき状況
アウト・セーフが微妙なクロスプレーのときに使います。さらに、野手の送球がそれていると効果が増します。
このフックスライディングは、一般的なスライディングの流れから瞬時で切り替えることも可能ですし、使用範囲が広いので、ぜひ身につけて欲しいスライディングです。
ヘッドスライディング
両手を前に出し、塁に飛びつくように頭から滑り込むスライディングです。
間違ったやり方
図4 間違ったヘッドスライディング
高校野球でよく見るヘッドスライディングですが、結構間違ったやり方をする選手を多く見かけます。
図4は間違ったやり方のヘッドスライディングですが、どこが悪いか分かりますか?
それは体を地面に着けて滑っていることです。
そもそも地面はアイスリンクのように、つるつる滑るわけではありません。それを広い面積を使って滑ろうとしても無理があります。
図4の場合、胸や腹でブレーキをかけていますので、遅いスライディングになってしまうのです。
正しいやり方
図5 正しいヘッドスライディング
ヘッドスライディングは図5のように、しっかり飛び込まなくてはいけません。
図4のように地面に体を着けてしまうと、胸や腹でブレーキをかけてしまうからです。
足から滑るスライディングもそうでしたが、ヘッドスライディングもベース近くから滑らないようにして下さい。
特にヘッドスライディングは、手で触塁するので突き指や骨折をし易いのです。
使うべき状況
正直、ヘッドスライディングをしなくてはいけない場面などありません。他のスライディングでまかなえるからです。
それでも、審判へのアピールだったり、味方の士気向上など利点がないわけではない。
しかし怪我のリスクが高く、十分な練習を積んでいるとは思えないアマチュア野球においてはデメリットの方が遥かに大きいです。
ヘッドスライディングの怪我
野手はランナーにタッチするとき手加減などしてくれません。ランナーが足でスライディングをやってくる場合、それ相当の覚悟をもってタッチしにいきます。
ヘッドスライディングの場合は手で触塁しますので、手や腕に強くタッチされることになります。運が悪いと頭や首にタッチされることもあり、結構な衝撃を受けることもありますし。
さらにタッチを避けつつヘッドスライディングするテクニックもあるのですが、これも危険です。
中日・荒木選手のスライディング集
上の動画は、2018年シーズン限りで引退した中日ドラゴンズ・荒木選手のスライディング集です。
0:36あたりのシーンで、荒木選手がセーフティーバントを試み、タッチをかわしつつ一塁ベースにヘッドスライディングをやっています。
非常に上手いのは、触塁する左腕の使い方です。ベースを撫でるように触塁し、決して引っかかるような動作をしていません。
逆にベースに引っ掛けるように触塁すると、体の勢いを左肩で受けてしまい脱臼などの怪我をしてしまう可能性がありますからね。
荒木選手のヘッドスライディングはスピードもさることながら、正確に触塁しつつ、怪我を防止するようなベースタッチをやっているんですね。
このような動作を理解・習得せずヘッドスライディングをやることは大変危険ですし、怪我の元になりますから、見よう見まねでやってみることはおススメしません。
そうでなくてもアマチュア野球の場合、技術不足による突き指や骨折はとても多いものです。
中学野球や高校野球などは、やっているときは長く感じますが、3年間(実質2年半)などあっという間です。
骨折などしてしまえば、ただえさえ短い野球生活がさらに短くなってしまいますからね。
まわりこみ
図6 まわりこみ
一般的なスライディングの応用です。本来足で触塁すべきところを、タッチをかわすために体を流して手で触塁します。
やり方とコツ
このスライディングの目的は『タッチをかわすこと』です。
コツはフックスライディング同様、送球と反対方向へ体を流し、タッチを避けるように滑ることです。
使うべき状況
野手がランナーの体にタッチしようとしている場合に有効です。ですので、タッチをかわした後に触塁するくらいでかまいません。
時間的には足で触塁する方が早くなって当然ですが、あえて遠回りするのはタッチをかわすためですからね。
最後に
色々なスライディングをご紹介しましたが、基本的には足から滑るか、頭から滑るかの2通りしかありません。
ヘッドスライディングの場合は怪我のリスクが高いことに注意しなくてはいけません。中途半端に怖がってしまえば、胸や腹でブレーキをかけることになり、結果的に遅いスライディングになります。
足から滑るスライディングも距離を間違えば、同様に怪我をしてしまいますし、しっかりとした練習は絶対必要です。
あと、グラウンドコンディションは絶対確認しておくこと。
暑い日でグラウンドが硬い状況なのか、雨が降ってぬかるんでる状況なのか、そういったグラウンドコンディションによって滑り込む位置は変わるからです。
特に注意して欲しいのは、雨でぬかるんでるとき。いつも滑りやすく、減速しませんから触塁の際に怪我をしやすいですから。
特に指導者の方はアウト・セーフも大事ですが、『スライディングのリスク』について考え、選手に教えて欲しいと思います。