打者がボールを捉えた瞬間、または捉えた後に『押し込む』ことは物理的に不可能です。
インパクト時間(ボールとバットが接触している時間)に比べ、人間の反応時間(ボールがバットに当たったと人が認識するために必要な時間)が長いためです。
その一方で、打者が『押し込んだ』と感じることは確かにあります。物理的に押し込めないのに関わらず。
打者が『押し込んだ』と感じるのは、インパクトの衝撃に負けないバッティング動作が出来たときです。
それにはインパクトの衝撃を受ける『手首』の使い方がポイントになります。
この記事では、インパクトの衝撃に負けない手首の使い方を図を用いて詳しく解説します。
- インパクトの衝撃に負けない手首の使い方
- 悪い形になる原因とその対策
- 手首の良い形と悪い形の比較
手の動きと用語説明
『手首の使い方』の解説の前に、手の動きと用語を説明したいと思います。
コックとアンコック
コック
親指の背面の方へ、手を曲げることをコックと言う。
バッティングにおけるフォワードスイングの際、捕手側の手(右打者なら右手、左打者なら左手)をコックさせることにより、バットのヘッドを残したまま右打者なら右肘、左打者なら左肘を先行して抜くことができます。
その結果、慣性モーメントを小さくすることができます。
そうすると、体にバットが巻きついたようなスイングができ、よりスイングスピードを速めることができます。
アンコック
コックした手を解き、手刀の方へ手を曲げる動きをアンコックと言う。
バッティングではフォロースイングに入るとき(すなわち両手を返すとき)、捕手側の手はアンコックすることになります。
掌屈と背屈
掌屈
手のひらの方へ、手を折り曲げる動作のことを掌屈と言う。
ボールを投げる場合、ボールをリリースした後の手の動きですね。この動作により、ボールにバックスピンをかけることができます。
背屈
手の甲の方へ、手を折り曲げる動作のことを背屈と言う。
ボールを投げようとスナップを効かせるときの動作です。
これらは、野球をする上で重要な動きとなるので覚えておいて下さい。
インパクトの衝撃に負けない手首の形
図1
図1は、インパクトの衝撃に負けない手首の使い方を示したものです。
まず、見て頂きたい所は右手が『裏突き』になっていることです。
裏突きとは?
正拳突きとは逆に、拳の手甲部が下向きになる突き技のこと。正拳突きは手の甲が天を向くが、裏突きは反対に、手の甲が地面に向く。
これは正拳突きです。
この『裏突き』ですが、どんな形でも良いわけではありません。ポイントは右手がアンコックしていないことです。
こうすることで、ボールの衝撃を手首だけでなく、腕全体で受けることができます。
ひとこと
右腕の形を見て頂ければ分かる通り、右腕はまだ伸びきる余地がありますよね?
インパクト後は右腕を伸ばすように動かし、右手をアンコックさせてフォロースイングに入ります。
人間の反応時間はインパクト時間に比べれば圧倒的に遅いので、『右腕を伸ばしている』タイミングで打者は『インパクトした!』と感じ、心地よい感触とともに打球を放つ感覚を持ちます。
これが『インパクトで押し込む』の正体です。
インパクトの衝撃に負ける「悪い手首の形」
図2
図2をご覧ください。これはインパクトの衝撃に負けてしまう「悪い手首の使い方」です。
右手がアンコックした状態でインパクトしていますね。これでは手首が支点になってしまい、手首でインパクトの衝撃を受けてしまいます。
ひとこと
例えば、素手で壁を殴ることをイメージして下さい。このとき、手をアンコックして殴ったらどうなるでしょう?
まず確実に手首を痛めるでしょう。なぜなら手首が支点になってしまうからです。
バッティングも同様で、手をアンコックしてしまうと、インパクトの衝撃を手首で受けてしまいます。
その結果、インパクトの衝撃に負けやすい状態になってしまうのです。
手首がアンコックしてしまう原因
結論を先に言えば、捕手側の手首がアンコックしてしまう原因は『肩の開きが遅い=肩の開きが不十分』だからです。
インパクトするために、打者はバットを投手に正対(投手と本塁を結んだラインとバットの角度が90°)させる必要があります。
同時に打者の体も、投手に正対しなくてはいけません(図1参照)。捕手側の手首をアンコックさせないためです。
しかし肩の開きが遅いと、肩の開きが不十分になり、打者の体が投手に正対させることができません(図2の両肩を結んだラインが投手に正対していない)。
それでも打ち返すために、バットだけは投手に正対させようとします。そのために手首をアンコックさせて必要な角度を作ってししまうのです。
手首がアンコックしてしまう対策
手首がアンコックしてしまうは、肩の開きが不十分であることが原因です。肩の開きが不十分になってしまう原因は、肩の開きが遅いことです。
このことより『肩の開きを早くする=始動を早くする』ことが、具体的な対策になります。
手首の使い方の問題(アンコックしてしまう)に対し、手首の使い方を見直すのではなく、体(=始動)で解決することがポイントです。
打者は始動を早くし、体を投手に正対させた状態でインパクトを迎えれば、自然と捕手側の手首はアンコックしない!
良い例と悪い例
写真①と写真②をご覧ください。どちらも低めの球をインパクトしている瞬間です。
どちらが良い打ち方で、どちらが悪い打ち方か分かりますか?
写真①
写真②
いかがでしょうか?
正解とその理由を解説
それでは、答えと理由を解説しますね。
写真①
これは良い打ち方で、インパクトの衝撃に負けない打ち方になっています。
右腕とバットのなす角度に注目すると90°になっていることがお分かり頂けると思います。
これは手首がアンコックしていないことを示しており、実際の写真を見てもアンコックしていないことが分かります。
写真②
これは悪い打ち方で、インパクトの衝撃に負ける打ち方になっています。
右腕とバットのなす角度が90°より広がっており、これは手首がアンコックしていること示しています。
これでは手首が支点になってしまい、手首でインパクトの衝撃を受けてしまいます。
手首を背屈してインパクトするのもダメ!
写真③をご覧ください。この打ち方は良い打ち方でしょうか?それとも悪い打ち方でしょうか?
写真③
右腕とバットのなす角度に注目すると90°になっていますし、手首はアンコックしていませんので、一見すると良い形に見えますよね。
しかし、これは悪い打ち方なんです!
理由は、右手が背屈しているからです。
インパクトのとき捕手側の手を背屈してしまうと、アンコック同様、インパクトの衝撃を手首で受けてしまうことになるからです。
手首が支点になってしまいますからね。
手首が背屈してしまう原因
インパクトの際に、捕手側の手が背屈してしまうのは
レベルスイングが正しい!
と思っている人に多いです。
ここで言う『レベルスイング』とは『地面に対してバットが水平であるスイング』のことです。
高めのボールをレベルスイングで対応しようとすれば、必ず捕手側の手を背屈しなくてはいけません。
しかし手首を背屈してしまうと、手首が支点となってインパクトの衝撃を受けてしまいますので、悪い打ち方になってしまうのです。
手首を背屈させない方法
高めのボールに対し、捕手側の手を背屈せず対応するには『ヘッドを立てて打つ』ことです。
そうすれば、捕手側の手首が背屈せず、かつアンコックさせずに打つことが可能になるのです。
地面に対し水平に振るレベルスイングに拘ってしまうと、インパクトの衝撃に打ち勝つ形は作れません。
まとめ
以上のことをまとめます。
- インパクトの衝撃に負けない打ち方が出来たとき、打者は『押し込んだ』と感じる
- インパクトの衝撃に負けない打ち方の前提になる動作は『裏突き』であるが、条件がある。
- 条件1→捕手側の手首をアンコックさせないこと!
- 条件2→捕手側の手首を背屈させないこと!
- 手首を背屈させないコツは高めはヘッドを立てて打ち、低めはヘッドを下げて打つこと!