守備における「一歩目の早さ」は、野手にとって守備力を決める重要なファクターとなります。
とりわけ、打球が飛んできてから捕球するまでの時間的猶予が短い内野手にとっては、一歩目の早さがそのまま守備範囲の広さに直結します。
だからこそ、アマチュア野球でも一歩目の早さの重要性を説く指導者は多いのですが、「どうすれば一歩目が早くなるのか?」を具体的な動作として説明できる人は本当に少ない。
と言うわけで、この記事では守備で一歩目が早くなるコツを具体的な動作として解説します。
重要なポイントして「重心」というワードができてきますが、特に難しい内容ではありませんので安心して下さい。
一歩目が早くなるコツは「腰を上げて構える」こと
一歩目が早くなるコツはズバリ、
腰を上げて構える
ことです。
あれ?「腰を落として(下げて)構えろ」と教えられたけど・・・
と思った人は残念ながら間違ったことを教わっています。
守備では何でもかんでも腰を落とせばいいわけじゃないんです。
「腰を上げる」ということは「重心を上げる」、「腰を下げる」ということは「重心を下げる」ことと同じです。
つまり重心をどう扱うかによって一歩目の早さ(俊敏性)が変化するのです。
その理由は重心の性質と絡めて次項で説明します。
重心の性質
重心とは質量の中心点のこと。
別の言い方をすれば「物体の重さを考慮し、その点を支えると全体を支えることができる点」となります。
まぁ表現方法については特に覚える必要はありません。みなさんが認識している「重心」で結構です。
ちなみに人体の重心はへそ付近にあります。
さて、ここからが大事。
重心には、スポーツ選手にとって重要な性質があります。
- 重心が高いほど不安定になる
- 重心が低いほど安定する
もう少し詳しく説明します。
重心が高いほど不安定になる
図1 重心が高い場合
図1は台形の短い辺を下に置いた様子を示しています。
この状態で横から力が加わった場合、台形が傾きやすいことがイメージできると思います。
これは長い辺を下に置いた場合に比べて、重心が高くなったためです。
すなわち、重心が高くなると物体は不安定になり動かしやすくなるのです。
重心が低いほど安定する
図2 重心が低い場合
図2は台形の長い辺を下に置いた様子を示しています。
この状態で横から力が加わった場合、台形が傾きにくいことがイメージできると思います。
これは短い辺を下に置いた場合に比べて、重心が低くなったためです。
すなわち、重心が低くなると物体は安定し動かしにくくなるのです。
野球選手への応用
重心の性質は物理法則ですから野球選手も例外ではありません。
重心を野球選手へ応用すると、以下のようになります。
- 腰を上げて重心を高くすれば動きやすくなる=一歩目が早くなる
- 腰を落として重心を下げれば動きにくくなる=一歩目が遅くなる
重心の性質を知っていれば、「腰を落として(下げて)構えろ」という指導がナンセンスであることは明白。体を動かしにくくなるため、一歩目が遅れがちになるからです。
反対に、「腰を上げて構える」ことが一歩目を早めることに有効なことも分かると思います。体を動かしやすくなるため、一歩目が早くなりますからね。
これらが「一歩目が早くなるコツは腰を上げて構えること」と話した物理的根拠です。
フランシスコ・ミゲル・リンドーア選手
下の動画は、MLBのニューヨーク・メッツに所属するフランシスコ・ミゲル・リンドーア選手の守備練習です。
リンドーア選手は広い守備範囲を持つショートとして有名であり、どような打球でも捕球することから「バキュームクリーナー」と呼ばれています。
この動画の41秒からご覧下さい(そのように設定してあります)。
「構え→打球が飛んでくる瞬間」の様子から始まりますが、腰を落として重心を下げるようなことはしていません。
それどころか、リンドーア選手は軽くジャンプしながらステップしていますね。
これは重心を高く保ち、打球に対して少しでも反応を早めようとしているためです。
重心の性質と体重移動の関係
重心の性質を知っていれば、体重移動についても合理的に考えることができます。
軸足を膝から折って投げるピッチャーをよく見かけますが、これでは体重移動が困難になってしまいます。
膝を折れば腰が落ちますので、当然重心が下がります。重心が下がれば体を動かしにくくなりますから、体重移動が困難になるのです。
打者も一緒。軸足を膝から折ってしまえば、やはり体重移動が困難になります。
これらのことは以下の記事で詳しく解説していますので、興味のある方は是非ご覧下さい。
他のスポーツも重心が大切
重心を高く保ち、一歩目を早めるテクニックは他のスポーツでも同様です。
テニス
トップ選手ともなれば平気で200km/hを越えるサーブを打ってきます。
そんなサーブに対応するためには、それ相応の俊敏性(クイックネス)が求められます。
当然ですが、腰を落として重心を下げるようなことはしていません。
軽くステップを踏み、重心を高くすることにより反応を早めています。
バスケットボール
バスケットボールでディフェンスをするとき、相手の「ドリブル」「シュート」「パス」という複数の選択肢に対応しつつ得点を防ぐことが求められます。
さらに、オフェンス側はフェイクを使って惑わそうとし、ディフェンスはそれに引っかかってはいけません。
つまり、バスケットボール選手は俊敏性(クイックネス)だけでなく、敏捷性(アジリティ)も高いレベルで求められるわけです(サッカーも同じ)。
俊敏性(クイックネス)とは?
動く方向の正確性は求めず、素早く動く能力。静止した状態からのスタート動作の早さ。
敏捷性(アジリティ)とは?
動く方向への正確性および素早く動く能力。方向転換やターンなど。
ディフェンスで相手のドライブ(ドリブルで抜くこと)に対応する場合、目的に合わせて重心の位置をコントロールします。
例えば、相手選手のドライブスピードが早く、それに対応することを優先する場合は重心を高く保って反応を早めます。これは俊敏性(クイックネス)を重視した守り方です。
反対に、ドライブのフェイントやパス、シュートなど複数の選択肢に対応しなくてはいけない場合は重心を低く保って体の安定性を保ちます。これは敏捷性(アジリティ)を重視した守り方です。
センターのポストプレイも重心の使い方に特徴があります。
ディフェンス側は、腰を落としてゴリゴリにぶつかるでしょ?
重心を下げることにより体の安定性が増し、吹き飛ばされることを防いでいるんですよ。
まとめ
この記事では、守備で一歩目が早くなるコツを具体的な動作として解説しました。
そして、具体的な動作とは「腰を上げて構える=重心を高く保つ」でした。
重心の物理的性質を理解していれば当然のことなのですが、これを知らない指導者が
腰を落として構えろ!
と怒鳴っている場面を見ると悲しくなります。
これでは一歩目が早くなることなどありませんし、守備範囲が広くなることもありませんからね。
記事の中でも触れましたが、重心の扱い方でプレーの質が大きく変化しますので、重心の性質をしっかり覚えておきましょうね。