ピッチングにおける体重移動は、伸びのある速いボールを投げるために大切な動作となります。
しかし、バッティングの体重移動同様、重心移動と体重移動の違いを理解していない指導者も多く、合理的な体重移動ができない選手を多く見かけます。
合理的な体重移動ができないと、伸びのある速いボールを投げる妨げになりますし、スタミナも無駄に疲労することになるのです。
この記事では、ピッチングにおける軸足の使い方や適切なステップ幅を説明しつつ、体重移動のコツを徹底解説します!
重心移動と体重移動の違い
バッティングにおける体重移動のコツを徹底解説!驚異的な飛距離を出す秘訣とは?の記事でも、重心移動と体重移動の違いを詳しく解説しましたが、スポーツ選手にとって重心移動と体重移動の違いを理解することは、とても大切なことですので、再度説明します。
重心移動
重心の定義は以下の通りです。
重心とは・・・
質量の中心点。物体の重さ(重力)を考慮し、その点を支えると全体を支えることができる点のこと。
人体の重心はへそ付近にあります。重心は体の使い方(動き方や方向)により、その位置が変化します。
重心移動とはその言葉の通り、人体の重心を移動させることです。
超重要!スポーツにおける重心の性質
重心にはスポーツ選手にとって重要な性質があります。
- 重心が高いほど不安定になる。
- 重心が低いほど安定する。
不安定と書くと、マイナスなイメージが沸くかもしれませんが、動きやすいと言い換えることができます。
安定と書くと、どっしりしていて良いイメージが沸きそうですが、動きにくいと言い換えることができます。
この重心の性質は守備に応用することができます。守備が上手な人は、打者が打球を放つタイミングに合わせて軽くステップしたり、小さくジャンプしたりしまが、これは重心を高く保ち、打球に対して動きやすくするためです。反対に、腰を落として低く構えてしまうと、重心が下がってしまいますので、動きにくくなり、一歩目が遅くなってしまいます。これらのことは、記事「守備で一歩目が早くなるコツは「重心」にあり!初心者や一歩目が遅い人でもできる構え方を解説」で詳しく解説していますので、ご参考に。
体重移動
体重の定義は以下の通りです。
体重とは・・・
体の重さのこと。
両足が地面に接している場合、この両足で体重を支えています。
体重移動とは、右足と左足にかける体重の割合を変化させることです。
ピッチングにおける軸足
一般的に、ピッチングにおける軸足は後ろ足(プレート(投手板)に触れている足)と言われます。
右投手なら右足が軸足、左投手なら左足が軸足ですね。
しかし、その考え方では不十分です!
テイクバック(バックスイング)での軸足は、右投手なら右足、左投手なら左足で間違いありません。
しかし、フォワードスイング(リリースに向けて腕を振っている状態)での軸足は、右投手なら左足、左投手なら右足になるべきなのです!
その理由は、体の捻り戻しを利用してボールを投げるためです。
速いボールを投げるためには、投球腕のスイングスピードを速める必要がありますが、体の捻り戻しを利用することが効果的です。
そのために、ピッチングではテイクバックで体を捻りますし、バッティングではバックスイングで体を捻るのです。
ただ単に、タイミングをとるだけの動作ではありません。
体の捻り戻しについて
消しゴムを捻るとき、一方の端を指で掴んで固定しながら、もう一方の端を捻りますよね?
例えば、消しゴムの下側を固定しながら、上側の固定を解除すると、消しゴムは勢いよく戻ります。
これが、弾性を利用した捻り戻しです。この力は歪が大きいほど大きくなります。
人間の体の場合、地面に接している足を一方の端として固定し、もう一方の端である肩を回すことによって腰がよじれ、腰が捻られます。
反対に、地面に接している足を一方の端として固定しない場合、腰に捻りは生まれません。
この場合は体を回転させているだけであり、捻りではないのです!
ピッチングやバッティングも『腰を回せ!』と指導する人がいますが、単に腰を回しても大きな力を発揮できませんので、間違っているんですよ。
強靭な下半身でしっかりと固定する=軸を作ることにより、体を捻ることができますので、軸の作り方を教えなくてはいけないのです。
そのためには、体の捻り戻しと腰を回すことは根本的に違うことを理解しなくてはいけません。
体重移動の目的
そもそも、ピッチングにおいて体重移動は何のためにするのでしょうか?
体重移動の最大の目的は、
体を捻るための軸足を『後ろ足(プレートに触れている足)』から『後ろ足(打者に向かって踏み込む足)』に踏みかえること
です。
逆に言えば、体重移動が上手く出来ないと、
- テイクバックで体の捻りを作れない
- フォワードスイングで体の捻り戻しが使えない
ことになり、球威もスピードも上げることができません。
ただ単に、”勢いをつけて投げる”、”できるだけ打者の近くでリリースする”だけが目的ではないのです。
これらが最大の目的だと考えてしまうと、体を前にすることが目的になってしまいます。
そうなると『重心移動はしていても、体重移動が不十分』なんてこともありますので注意して下さい。
体重移動のコツ
体重移動のコツは軸足(前足、後ろ足)の使い方がポイントになります。
具体的には、
- テイクバックでの後ろ足の使い方
- フォワードスイングでの前足の使い方
- 適切なステップ幅
を扱うことが体重移動のコツです。
それでは次項から、それぞれについて詳しく解説したいと思います。
テイクバックでの後ろ足の使い方
テイクバックは『ボールを投げるための準備段階=力を溜める動作』であり、具体的に言えば、体を捻って歪を作る動作です。
テイクバック(バックスイング)での軸足は、右投手なら右足、左投手なら左足であり、プレート(投手板)にプレート(投手板)に触れている後ろ足になります。
後ろ足の使い方のポイントは2つあります。
- 後ろ足を内捻する(内側に捻る)
- 後ろ足を追って、重心を下げるな
後ろ足を内捻(内側に捻る)する
図1 後ろ足を内捻した、良い軸足
図1のように、後ろ足を内捻することによって、上半身をセンター方向へ捻るときの抵抗力となります。
この抵抗力がないと、体の捻りを作り出すことができません。
もし、上半身につられて後ろ足が外捻してしまうと、同じ方向に体が回ってしまいますので、体の捻りは全く作られませんからね。
これではテイクバックをとっている意味がありません。
後ろ足を折って、重心を下げるな
図2 後ろ足を折った、悪い軸足
図2のように、テイクバックで力を溜めようと、後ろ足を折って重心を下げてしまう投手がいますが、これは悪い動作ですので、今すぐやめましょう。
記事冒頭で説明しましたが、重心を下げてしまうと、体を動かし辛い状態になりますので、テイクバックからフォワードスイング(リリースに向けて腕を振っている状態)に移行するとき、体重移動がやり辛くなるのです。
この状態に陥ると、後ろ足でプレートを思いっきり蹴って、それを体重移動の推進力にしようとします。
そのような状態で投げ続けていると、スタミナの消耗が大きく、後ろ足で蹴る力が弱まるにつれ、球威とスピードが落ちますので、良い状態で投げ続けることが難しくなります。
問題はまだあります。
重心を下げたあと、また重心を上げる動作はエネルギーロスになってしまいますので、一旦重心を下げた投手は低重心を維持したまま投げようとします。
後ろ足でプレートを思いっきり蹴っていることもあり、
- ステップ幅が広がっている
- 低重心
という状態になり、結果的にステップする前足(打者に向けて踏み出す足)に体重が乗らなくなってしまうのです。
それでも、できるだけ打者の近くでリリースしたいと考え、前足(右投手の左足、左投手の右足)を膝から折り、上体をスウェーさせて投げしまいます。
これでは、ただ腰を回しているだけに過ぎず、体の捻り戻しを使えていませんので、投球腕のスピードを加速させることが難しくなってしまうのです。
フォワードスイングでの前足の使い方
次にフォワードスイングでの前足の使い方について解説します。
ピッチングにおけるフォワードスイングとは、リリースに向けて腕を振っている状態であり、前足が軸足となります。
右投手なら左足、左投手なら右足が軸足です。
フォワードスイングにおける前足の使い方のポイントは以下の通りです。
- 前足を内捻する
- 前足は踵(かかと)から着地する
前足を内捻する
図3 前足を内捻した、良い軸足
図3のように、ステップした前足を内捻させます。
前足を内捻させる目的は、テイクバックで作った上体の捻り、投球腕の張りに抵抗するためです。
この考え方はバッティングにおける『壁』と全く同じであり、この『壁』があるからこそ、捻り戻しの力を利用できるのです。
図4 前足が外捻した、悪い軸足
図4をご覧下さい。
これは、前足の膝が外に緩んでしまい、外捻した悪い前足の使い方です。
これでは、テイクバックで作った上体の捻り、投球腕の張りに抵抗できず、ただ腰を回しているだけです。
せっかくテイクバックで上体を捻っても、それが利用できず、投球腕を十分に振り切ることができません。
前足は踵(かかと)から着地する
ステップした前足を地面に着地させるとき、必ず踵(かかと)から着地させましょう。
これは慣性に逆らわないようにするためです。
逆に、つま先から着地した場合、つま先→踵(かかと)の順番で地面に着地することになり、体重移動の方向に対して妨げる動作になってしまいます。
このように慣性に逆らってしまうと、体重移動の妨げになりますので、ステップした前足は必ず踵から着地するようにして下さい。
適切なステップ幅
投手にとって適切なステップ幅は、歩くときの歩幅くらい、もしくはそれより若干広いくらいです。
ステップ幅が広すぎると、どうしても前足が膝から折れ曲がり、十分な体重移動ができません(写真1参照)。
この理由を物理的に説明すると、重心が下がることによって、物体が動かし辛くなってしまうからです。
その結果、捻り戻しの力を利用できなくなりますので、合理性に欠けた投げ方になってしまうのです。
写真1
適切なステップ幅として、以下の動画を参考にして下さい。
以下の動画は、MLBで活躍したランディ・ジョンソンのスローモーション動画ですが、理想的な後ろ足・前足の使い方をしています。
まとめ
バッティング同様、ピッチングでも体重移動は非常に重要な動作のひとつです。
今回の記事で解説した内容は、バッティングの体重移動の考え方と全く同じであり、物理法則に則れば当然のことなのです。
何度も言いますが、体の捻り戻しを利用すれば、大きな力を出すことができますし、体の捻り戻しを利用しなければ、大きな力を出すことが難しくなります。
また、合理的な動作が理解できれば、効果的な練習内容も判断できるようになります。
投手の場合、下半身を強化するためにランニングをする(させる)ことが多いですが、ただ時間や距離を意識して走っても時間のムダです。
しかし、しっかりと両脚の内捻を意識し、そこを鍛えるつもりで走れば効果はあるでしょう。
このように、同じ練習でも意識を置くポイントが変われば、内容も効果も変わるのです。
- 体重移動と重心移動の違いを理解する
- テイクバックの軸足は後ろ足(プレートを踏む足)である
- フォワードスイングの軸足は前足(打者に踏み出す足)である
- いずれの軸足も内捻させること
- いずれの軸足も折ってしまうと、体重移動が不十分になる
- 適切なステップ幅がスムーズな体重移動を可能にする
- 適切なステップ幅は歩くときの歩幅(またはそれより若干広い)くらいである