バッティングにおいてトップは重要な動作です。良い打者ほどトップが安定していますし、打てない打者ほどトップは安定していません。
『トップが安定している』とはいつも同じ位置にあるという意味です。だから、『トップの位置』が重要だと指導する人が多いんですね。
でも少し疑問に思いませんか?
正しいトップの位置があるんだったら、最初からトップを作って構えていれば良いのでは?
しかし、このような打ち方をする選手はいませんし、教える指導者もいません。不思議でしょ。
実はこれ、当然なんです。なぜなら『トップの位置』が重要なのではなく『トップの作り方』が重要だからです。
この記事では、合理的なトップの作り方について詳しく解説します。
トップの「位置」に注目して意味はない!
バッティングのスイングは捕手側に体を捻って力を溜めるバックスイングと、ボールを打ちにいくフォワードスイングに分けることができます。
トップはバックスイングを終えて、フォワードスイングを開始する準備段階に作られるものです。
そのことから、トップは以下のように表現することができます。
バックスイングで十分体を捻っている
=フォワードスイングに入る準備ができている
=トップが安定している
だから、トップが安定している選手は打てるのです。
結論から言えば、トップの位置なんか気にしていても打てるようになりません!
重要なのは位置ではなく『トップの作り方』なんです。そしてトップはバックスイングでしっかり体を捻ることにより、作られるのです。
ひとこと
バッティングの始動とはバックスイングの始動のことです。まれにフォワードスイングをスイングの始動と言う人がいますが、バックスイングを軽視した間違いな考え方です。
バックスイングは絶対に軽視してはいけない動作です。バックスイングを終えた形がトップですから、バックスイングを軽視しては、正しいトップが作れるわけがないんですよね。
バックスイングの始動が遅れると、トップが浅くなったりして普段と違った位置になってしまいます。これをトップの位置の問題と捉えてしまっては、いつまでも根本的な原因は解決しません。
それに対し、いつも決まった位置にトップを作れる人はスイングの始動が遅れません。これは始動を早めてバックスイングの動作の中でタイミングを微調整するからです。
トップの役割
バッティングにおける『トップ』とは、バックスイングを終えてフォワードスイングを開始する準備段階です。
バックスイングの終わり = フォワードスイングの始まり = トップ
言い換えれば、バックスイングで溜めた力を投手が投げるタイミングに合わせている段階ですね。
フォワードスイングとは・・・
ボールに向けてバットを振っている動作。
バックスイングとは・・・
捕手側に体を捻り、力を溜めている動作。
バックスイングを終えた状態がトップですので、十分なバックスイングが出来ているかどうかの結果がトップに表れます。バックスイングが不十分な場合はトップに表れてしまうんですね。
だからトップの位置が重要なのではなく、トップの作り方が重要なんです。
バックスイングは力を溜める動作ですので、これが不十分だとパワフルなバッティングは望めません。
バックスイングを軽視するな!
私が高校球児だった頃、監督から『後ろは小さく前は大きく』と指導されました。これは『バックスイングは小さく、フォロースルーは大きく』という意味です。
当時は疑いもせず信じていましたが、今考えれば間違っているんですよね。結論を先に書けば、『バックスイングは深く』が正しいのです。
バックスイング → トップ → フォワードスイング、という一連の流れから、バックスイングが深い=トップが深いと言い表せます。
ひとこと
今の高校野球では、どのような指導が主流か知りませんが、昔と変わらない印象を持っています。甲子園に出場するチームの主力選手でもバックスイングが深い選手は少ないですから。
この『トップを浅く取る』という悪い風潮は、『トップの役割=タイミング合わせるため』という考えが根底にあるからだと考えています。
トップが深いと速球に差し込まれると考える人が多いんですが、違うんですよ考え方が。
速球に差し込まれないようにするには始動を早くすれば済むのです。始動を遅らせてまで、トップを浅くとるメリットはありません。
トップを深くとる理由
トップを深くとる理由は『バックスイングで溜めた力を、効率よくフォワードスイングに伝えるため』です。
右打者を例にあげて具体的に説明します。
トップが深い場合
トップが深い=体とバットのグリップを距離をとっている、とイメージして下さい。このとき、右打者の左腕は突っ張る感じになります。
この状態からフォワードスイングに移るときに、左肩を開き胸が投手に正対していきますが、深くとったトップは出来るだけ維持させます。
このときに体は深く捻られます。そうすると、もう左脇が我慢できない状態になり、そこから左腕が体に引っ張られるように出てきます。
体の捻れを解消するときの力(捻り戻し)を利用して打つのです。このようなスイングは自然とインサイドアウトスイングになります(図1参照)。
図1 インサイドアウトスイング
でんでん太鼓をイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。
軸となる棒が回転したあとに、そのエネルギーが紐に伝えられた結果、紐の先の玉が加速するのです。
写真①
写真①はトップが深い例です。左腕が張っていることが分かります。
写真②
写真②はフォワードスイングに移行してインパクト直前の様子です。差し込まれぎみですが、そこは気にしないでください(笑)
注目してもらいたいのは、体が投手に正対しているのに、バットのヘッドがまだ残っている点です。
フォワードスイングの際に、体の回転に比べてバットのヘッドが遅れて出てくるのです。
これが捻り戻しの力を利用した打ち方であり、『バットをムチのように振る』ということと同義になります。
トップが浅い場合
トップが浅い=バットのグリップを、右胸あたりに来るように構えた状態をイメージして下さい。このままバックスイングを行うと、右打者の左腕は縮こまったままです。
この状態からフォワードスイングに移りますが、まず左肩を開き、胸が投手に正対していきます。
このときバットのグリップは右胸付近にありますから、必然的に体の回転と同時にバットが出てきてしまいます。
これではバックスイングにおける体の捻りが不十分になってしまい、体の捻り戻しによる力でバットを加速させられません。ただ『体の回転』でバットを振っているだけです。
それに加えて、縮こまった左腕を伸ばそうと(左腕をリードしてしまう)するので、手打ちになってしまいます。
このようなスイングをドアスイングと言います(図2参照)。
図2 ドアスイング
写真③
写真③はトップが浅い例です。左腕が縮こまっていますね。
この状態で腰を回転させれば、左肩を開くと同時にバットを振り出してしまうので『タメ』が少なくなります。これでは強い打球は打てません。
トップを深く作る方法
トップを深く作る方法を説明したいと思います。
ただ単にトップの状態で、体とバットのグリップが離れていれば良い訳ではありません。
慣性モーメントとスイングスピードの関係
トップを深くとる目的は『バックスイングで溜めた力を、効率よくフォワードスイングに伝えるため』、すなわちスイングスピードを速くすることです。
そこでスイングスピードを速くするためには、慣性モーメントを小さくする必要があります。
慣性モーメントとは、「回転しにくさ」の程度を示す量のこと。
慣性モーメントが大きいほど、物体は回転し辛くなります。逆に、慣性モーメントを小さくしてあげれば、物体は回転しやすくなります。
慣性モーメントを小さくするにはどうすればよいかと言うと、回転半径を小さくしてあげれば良いのです。
逆に、回転半径が大きいと慣性モーメントは大きくなります。
・回転半径大 → 慣性モーメント大 → 回転し辛くなる
・回転半径小 → 慣性モーメント小 → 回転しやすくなる
身近なスポーツで例をあげれば、フィギュアスケートのスピンが分かりやすいと思います。
4回転ジャンプや3回転ジャンプなどをするとき、選手は両腕を縮めて回転半径を小さくしますよね。決して両腕を広げてスピンする選手はいません。
両腕を広げると慣性モーメントが大きくなってしまい、回転し辛くなるからです。
慣性モーメントを小さくする方法
バックスイングを終えてトップを深くとった状態で、どうすれば慣性モーメントを小さくできるのでしょうか。
それはバットのヘッドを投手に向ければ良いのです。
体にバットを巻きつけているイメージです。逆にバットのヘッドが捕手側に向いてしまうと、慣性モーメントが大きくなりスイングスピードが遅くなってしまいます。
よく『ヘッドが投手寄りに傾くのはバットが遠回りするからダメだ!』という人がいますが、物理的には間違っています。
バットのヘッドを体に巻きつける = ヘッドを投手寄りに傾ける
これを知っていればトップを深く取った状態でスイングスピードを速くすることができるのです。
バットのヘッドを投手寄りに向けるのは簡単で、右打者の場合は右脇を開け、右肘を立ててやれば良いのです(写真④参照)。
写真④
写真④はトップの状態から、フォワードスイングに移っているタイミングですが、深いトップを維持していることが分かると思います。
捕手側の脇をしめるな!
反対に右脇(捕手側の脇)を締めてしまうと、バットのヘッドは投手寄りに向きません。
その結果、慣性モーメントが大きくなりスイングスピードを速くすることが難しくなってしまいます(写真⑤参照)。
写真⑤
捕手側の脇を開け、肘をたてる
深いトップを作る一番簡単な方法は、アドレスの状態から捕手側の脇を開け、肘を立ておくことです。
すなわち、アドレスの状態からトップの一歩手前の状態を作ってしまうのです。そして、投手のタイミングに合わせて、立てた肘を少し上に向ければ、投手側の腕が伸び、深いトップの出来上がりです。
極論を言えば、深いトップを作ることができれば、最初の構え(アドレスの状態)はどうでも良いです。ですが、深いトップを安定して作るには、余計な動きを省くことが重要です。
ですので、最初に構えた状態からトップ一歩手前の状態を作ることをお勧めします。
最も簡単で安定するトップの作り方
ここまで合理的なトップの作り方を解説してきましたが、
実戦で安定したトップを作ることはやっぱり難しい・・・
と感じる方もいると思います。
そのような方は以下の記事で解説しているトップの作り方を実践してみることをおすすめします。
このトップの作り方は、昔から多くのメジャー(MLB)選手が導入している合理性の高い動作であり、最も簡単で安定するトップが作れますよ。
まとめ
- トップは深くとること。
- 慣性モーメントを小さくし、スイングスピードを速めること。
- 慣性モーメントを小さくするためには、ヘッドを投手に向けること。
- 捕手側の脇を空けて肘を立てれば、ヘッドは自然と投手に向く。
- トップの位置ではなく、トップの作り方について理解すること。
『バッティングはトップが重要だ』と認識していても、合理的な理由を理解していないと正しい動作は身に付きません。
だから『トップが重要』と知っていても、どうやってトップを作ったら良いか分からないんですよね。挙句の果てに、トップの位置に注目してしまい、正しい位置をキープできれば良いと誤解してしてしまうんです。
しかし『トップの位置』だけに着目しても、速いスイングスピードは得られません。
これはスイングスピードを速くするを目的とせず、ボールに当てることを目的としてしまっていることが元凶なんです。投手が投げたボールにバットを当てるだけでは、打球は飛んでいきませんからね。
投手の投げるボールは運動エネルギーを持っており、ボールのスピードが速ければ速いほど運動エネルギーは大きくなります。
そのボールを打ち返すためには、ボールの運動エネルギーに負けない運動エネルギーが最低限必要なんです。そのためには、スイングスピードを上げてバットの運動エネルギーを大きくしなくてはいけません。
だからこそ、本当に大切なことは『トップの位置』ではなく、スイングスピードを上げるための『トップの作り方』なのです。