バッティングにおけるトップとは、バックスイングを終えてフォワードスイングを開始する準備段階であり、打者にとって重要な動作のひとつです。
合理的なトップの作り方の解説は記事『好打者になる「トップ」の作り方を徹底解説!意識するのは「位置」ではなく「作り方」』に書きましたが、
実戦で安定したトップを作ることはやっぱり難しい・・・
と感じる方も多いのではないでしょうか?
この記事では、そのような方のために最も簡単で安定するトップの作り方をご紹介します!
ここで紹介するトップの作り方は、昔から多くのメジャー(MLB)選手が導入している合理性の高い動作ですので、試してみる価値はあると思いますよ。
目指すべき理想的なトップとは?
最も簡単で安定するトップの作り方をご紹介する前に、目指すべき理想的なトップについて確認しておきます。
- 大切なのはトップの「位置」ではなく「作り方」である
- トップは深くとること
- トップ後のスイングスピードを速くするために、ヘッドを投手に向けること
これらの理由は、以下の記事で詳しく解説していますのでそちらをご覧下さい。
最も簡単で安定したトップの作り方
図1 トップの作り方(連続動作)
図1は最も簡単で安定するトップの作り方を連続動作として表したものです。
これを『構え』『バックスイング→トップ』『フォワードスイングの開始』に分けて順番に解説します。
構え
図2 構え
安定的なトップを作るために、バットは体に近づけてスイングの発射位置に構えます。
このとき捕手側の肘(右打者の右肘、左打者の左肘)を立て、フライングエルボーにします。
そうすると図2のように捕手側の脇(右打者の右脇、左打者の左脇)は空いた状態になります。
バックスイング→トップ
図3 バックスイング→トップ
フライングエルボーにした捕手側の肘(図3の左肘)を構えた位置より上にあげます。
このとき両手はコックさせてバットのヘッドを投手の方へ傾けましょう。これは慣性モーメントを小さくしてスイングスピードを速くするためです。
これで理想的なトップの完成です。
実は、最初にバットをスイングの発射位置に構えていたのはバックスイングの動きを減らすためなんですよね。
構えている段階から半分バックスイングをやっているようなものですので、その後に行うバックスイングは『捕手側の肘を上にあげる』というわずかな動作で済むのです。
動作が少なければ再現性が高くなり、その結果、安定性が増すのは当然のことです。
バックスイングの動きが小さい=浅いトップなんじゃない?
と思われる方もいるかもしれませんが、図3の投手側の腕(右腕)をご覧下さい。
右腕が伸びていますので、しっかりと深いトップになっているんですよ。
そのおかげで自然と左脇が締まりますので、フォワードスイングに移行する理想的な形になるのです。
またコツとしては、バットを持っている手に力を入れず捕手側の肘をフライングエルボーにすることです。
手を上に持ちあげるだけでは上半身を捻れませんので深いトップになりませんし、フォワードスイングに移行したときに弊害がでてドアスイングになる可能性がある(後で解説します)からです。
< 慣性モーメント >
「回転のしにくさ」の程度を示す量のこと。
慣性モーメントが大きいほど物体は回転しにくく、慣性モーメントが小さいほど物体は回転しやすい。
慣性モーメントは回転半径が大きいほど大きくなる性質を持つ。
< コックとアンコック >
図4 コックとアンコック
コックとは、親指の背面の方へ手を曲げること。
アンコックとは、コックした手を解き手刀の方へ手を曲げる動きのこと。
フォワードスイングの開始
図5 フォワードスイングの開始
トップの後は投球にタイミングを合わせてフォワードスイングを行います。
このとき、トップで上にあげた捕手側の肘(左肘)をバットのヘッドを残しつつ、先行させるように抜きましょう。
コツとしては、左肘を勢いよくヘソの前に持ってくることです。
そうすると図5のように左肘をかいこむことができ、バットのヘッドを後ろに残すことができます。
先程、『トップを作るとき、バットを持っている手に力を入れてはいけない』と書きましたが、その理由は、手に力が入っていると手を先行させてバットを抜こうとし、その結果『ヘッドがタメられずドアスイングになってしまう可能性がある』からです。
ちなみに、このようにバットのヘッドを後ろに残した打ち方をレイトヒッティングと呼び、インサイドアウトスイングには欠かせない技術となっています。
メジャー(MLB)選手のトップの作り方を見てみよう!
ここで紹介したトップの作り方は昔から多くのメジャー(MLB)選手がやっています。ここでは、その中からいくつかご紹介します。
バリー・ボンズ
バリー・ボンズ氏はピッツバーグ・パイレーツ→サンフランシスコ・ジャイアンツで活躍したスラッガーです。
MLB歴代1位となる通算762本塁打をはじめ、シーズン73本塁打、長打率.863、出塁率.609、OPS1.422など数々の大記録を残し、史上最も偉大な野球選手の一人とされています。
それでは、バリー・ボンズ氏のスイングをスローモーションで見てみましょう!
構えで左肘を立て、フライングエルボーにしています。
バックスイングに入る前、一旦ヒッチ(トップを作る前段階において、グリップを一度下げる動作)しますが、その後、左肘を上にあげて深いトップを作っています。
フォワードスイングでは、バットのヘッドを残したまま左肘を抜いています。
無駄がほとんど無い、合理的なトップの作り方ですね。
ミゲル・カブレラ
ミゲル・カブレラ氏はマイアミ・マーリング→デトロイト・タイガースで活躍しているスラッガーです。
2012年にはMLB史上45年ぶりとなる三冠王(.330、44本、139打点)を達成するなど、最高の打者の一人といえる存在です。
それでは、ミゲル・カブレラ氏のスイングをスローモーションで見てみましょう!
構えで右肘を立て、フライングエルボーにしています。
バリー・ボンズ氏と比べると肘の立て方が浅く、バットを持つ位置も高いのですが、ヒッチした後、右肘を上にあげて深いトップを作っています。
フォワードスイングでは、バットのヘッドを残したまま右肘を抜いています。
バリー・ボンズ氏ほどではないものの、無駄が少ない合理的なトップの作り方ですね。
このようなトップの作り方はMLB選手だけでなく、NPBに助っ人として入団する外人選手にも多く見られます。
昔から、それを評して
予備動作(バックスイング)が小さく、パワーに頼った打ち方だ!
あれはパワーがある外人だからできること。フィジカルで劣る日本人にはできない打ち方だ!
という評論家や指導者が多かったのですが、それは合理的なトップの作り方を知らないからなんですよね。
そのせいで、
- バックスイングとは、手を構えたところから後ろに引いて、同時にバットも後ろに引くことだ
と勘違いし、シンプルで合理的なトップの作り方をする日本人選手が少ない元凶となっているのです。
日本人選手(NPB)のトップの作り方を見てみよう!
次に日本人選手のトップの作り方を見てみたいと思います。
松井秀喜
松井秀喜氏は読売ジャイアンツ、ニューヨーク・ヤンキースなどで活躍したスラッガーです。
NPB時代には本塁打王を3度獲得し、MLBではアジア人初のワールドシリーズMVPを受賞するなど、日本を代表する長距離打者の一人です。
それでは、NPB時代の松井秀喜氏のスイングをスローモーションで見てみましょう!
構えで左肘を下げており、フライングエルボーにしていません。
バックスイングで左脇を開けて左肘を上げていますが、比較的浅いトップとなっています。
次にフォワードスイングに移るのですが、右足をステップして体重移動をするタイミングで手とバットの位置を保っています。
その結果、右腕が伸びて深いトップと同じような状態になっています。
これらをまとめると、結果的に深いトップになっているものの一連の動きの中で作ったものですから、不安定なトップの作り方であると言わざるを得ません。
続いて、MLB時代の松井秀喜氏(オークランド・アスレチックス時代)のスイングをスローモーションで見てみましょう!
NPB時代とは異なり、バットを持つ位置を上げて左肘を立て気味に構えています。
私の記憶が正しければ、ニューヨーク・ヤンキース時代の途中からこのようなトップの作り方に変わったはずですが、手元で変化するボールを多投するMLB投手に対応するために、安定したトップを作ってバックスイングをシンプルにしようと考えた結果だと思われます。
ただ、バットを構える位置が身体から離れているため、左肘がフライングエルボーになっていません。
トップを作るときヒッチをしませんから、左肘を上にあげる動作がなく、結局浅いトップになっています。
柳田悠岐
柳田悠岐氏はソフトバンクホークスで活躍するスラッガーです。
2015年にはNPB史上初となるトリプルスリーと首位打者の同時達成者となりましたし、並外れた飛距離を生み出す打力は驚異的です。
それでは、柳田悠岐氏のスイングをスローモーションで見てみましょう!
構えで左肘を立てていますが、バットを持つ位置が高いのでフライングエルボーになっていません。
しかし、バックスイングでバットを持つ位置を下げつつ身体に近づけていますので、左肘がしっかりフライングエルボーになり、かつ両手をコックさせていますので、深いトップができています。
小林誠司
小林誠司氏は読売ジャイアンツで活躍する選手であり、捕手としては強肩で盗塁阻止率も高く、フレーミング技術も高く評価されています。
その一方、バッティングには課題があり『打率.250なら凄いキャッチャー』と言われるくらいです。
そんなバッティングを苦手にする小林誠司氏のスイングをスローモーションで見てみましょう。
構えで右脇を空けていますが、バットを構える位置が身体から離れているため、右肘がフライングエルボーになっていません。
トップを作る際も右肘を上げる動作が全くなく、極浅いトップになっています。
さらに、手とバットの位置が左足をステップして体重移動をするタイミングで身体と一緒に流れていますので、ほとんどバックスイングをやっていないに等しい状態です。
バックスイングが不十分だとパワフルなバッティングができませんので、バッティングを苦手としている原因のひとつになっていることは間違いありません。
まとめ
最も簡単で安定するトップの作り方を解説しましたが、いかがだったでしょうか?
メジャー(MLB)選手のトップの作り方は力任せのようなイメージを持たれがちなのですが、実は合理的な動作なのです。
昔に比べれば合理的なトップの作り方をする日本人選手は増えましたが、まだまだ昔ながらの『手を構えたところから後ろに引いて、同時にバットも後ろに引いてトップを作る』をやっている選手は多い。
本来ならフィジカル面で劣る日本人選手の方が、もっともっと合理性を突き詰めるべきだと思うんですがね。
ちょっと話がそれましたが、実戦で安定したトップを作ることが難しいと感じている方であれば、MLB流のトップをマネることをおすすめいたします。