あなたは高校野球において、監督が出すサインを選手の判断で破って良いと思いますか?
高校野球の監督と主将(選手)では考え方が違うようです。
今回の記事は、高校野球におけるサイン破りアンケート結果から見えてくる『本音と建前』について考えてみました。
高校野球におけるサイン破りアンケート結果
高校野球に限らず、野球におけるベンチからのサインは試合戦況を左右するほど重要なことが多いです。
ある調査で『サイン破りはあり?なし?』というアンケートを実施した結果、以下のようになったそうです。
「ベンチのサインを破っても良いか?」アンケート結果
回答者:監督
サイン破り『あり』 60人(52%)
サイン破り『なし』 76人(25%)
どちらとも言えない 11人(23%)
回答者:主将
サイン破り『あり』 40人(25%)
サイン破り『なし』 115人(73%)
どちらとも言えない 3人(2%)
思ったよりも、『あり』と答えている人が多くて驚きました。特にサインを出す監督自ら、サイン破りを『あり』と答えている人が多いです。
アンケートにおける監督の意見
監督の意見として、以下のようなものがあがっていました。
【サイン破り あり】
・選手が打席で感じ、判断したことであれば納得
・理由や根拠がしっかりしていれば、むしろ奨励している
・選手には思いっきり自分の思うとおりにプレーさせてあげたい
・自分たちで判断できるチームの方が成熟している
【サイン破り なし】
・チームをまとめるのは監督。選手は監督を信じて行動する
・結果論では経験にならない
・監督、選手間の信頼関係を大事にしないのは、高校野球ではない
・勝利は選手のおかげ、負けは監督の責任。負けの原因が選手にいかないよう、指示には従ってほしい
引用元:朝日新聞DIGITAL
http://www.asahi.com/koshien/articles/ASK6S4DY9K6SUTNB002.html
根拠があれば良い、って言うけど・・・
サイン破りありの意見として『サインを破った根拠があれば良い』とあります。
しかし、その根拠の妥当性を判断するのは現場のトップである監督です。結局は監督の考えと一致しないと『根拠』とは認められないんですよね。選手の考えが合理的で的確な判断だとしても。
こういうのって曖昧だと思いません?
送りバントのケースで根拠あるヒッティング
例えば、送りバントのサインが出ている状況で、相手守備が極端なバントシフトをとった場合のサイン破りについて考えて見ます。
①このままバントをすれば相手の思うツボなので、ヒッティングに切り替えた。
結果は、一二塁間を破るライト前ヒットで、ランナー一三塁となりチャンス拡大に成功した。
②このままバントをすれば相手の思うツボなので、ヒッティングに切り替えた。
結果は、セカンドへのハーフライナーになってしまい、ダブルプレイに。一瞬にしてチャンスを失った。
③このままバントをすれば相手の思うツボなので、ヒッティングに切り替えた。
結果は、空振りになってしまい、飛び出したランナーがアウトになってしまった。
①、②、③とも同じサイン破りですが、結果が全然違います。しかし、サインを破った根拠はどちらも『相手守備が極端なバントシフトをとったこと』と共通しています。
『サインを破った根拠があれば良い』と言うなら、①と②、③は同じ評価にならなくてはいけませんが、実際にどれくらいの監督が結果ではなく根拠に対し評価を下せるか疑問に感じてしまいますけどね。
選手の能力で出すサインは異なる
ミート力が備わっている選手と空振りが多い選手では、サインを出す考え方が異なります。
②のケースでは、意識してゴロを打つことが出来ない選手だから、あえて送りバントのサインを出しているかもしれません。
③のケースでは、空振りが多い選手だから、あえて送りバントのサインをだしているかもしれません。
監督は選手の能力に応じたサインを出します。でも、選手は監督がどのように選手を評価をしているかなど完全にには把握できません。
こんな場合でも、『サインを破った根拠があれば良い』と言えるんですかね?
成功すればOK、失敗はダメなんて言う監督さんは、結果の責任を選手に押し付けているだけです!
失敗するリスクを選手に押し付けておきながら、『根拠があればサインを破っても良い』なんて所詮、建前であり本音では無いんです。
指示の意図を100%理解することは無理
ハッキリ言って、監督の指示の意図を100%理解することは無理です。逆に言うと、選手に100%理解されるようなサインを出す監督は考えが浅すぎます。
監督の仕事は、試合に勝つことです。試合に勝つためには、選手の能力を正確に把握する必要があります。
特に高校野球の場合は、選手が短期間で急成長することもありますから、より深い観察が必要になるんですよね。
様々な目的をもった盗塁のサイン
練習試合では、試合の勝敗よりも選手の能力選定、および技術の習得を優先させるためにサインを出すこともあります。
・より高いレベルの相手に対し、盗塁する技術を学ぶ契機にして欲しい
・単純に、自軍選手の盗塁技術がどこまで通用するのかを見極めたい
・今後の戦いのために、相手の能力を確かめたい
・同じような能力を持つ選手同士を、振るいにかける『試験』的な場合
このように盗塁のサインが出ても、ただ単に『試合に勝つため』とは限らないのです。
でも、選手が勝手に『盗塁のサインが出たが、相手が上手くスタートがきれなかった』と盗塁しなかったらどうでしょうか?
実際は監督が出したサインの目的が『今後の戦いのために、相手の能力を確かめたい』だったとしたら?
選手は先の塁を盗むことを目的としていますが、監督の目的は違いますね。選手が個々に判断していたらチームとして成立しません。
選手からすれば『どんな目的で盗塁するか』は、試合展開から予想できることはあっても、監督目線で予想できることは限界があります。だからこそ選手には全力でプレーすることに集中させるべきです。
バントの練習を目的としたサイン
例えば、10点差をつけられて敗色濃厚な最終回に、無死一塁でバントのサインが出たらどうしますか?
こんな場面でバントはありえない、監督のサインミスだ!
と判断し、打ちにいけば、立派な『サイン無視』ですね。
監督の意図が『勝敗は決まっている状況だが、バントの実践練習をさせたい』だったら、どうでしょうか。やはりチームとして、やっていることがバラバラですね。
監督と選手は役割が違う
本来、監督と選手は役割が違います。
監督は試合全体を考えて、勝つためにシナリオを描き選手をコントロールします。
選手は監督の指示を理解・実践し、勝利をつかむためにプレーします。
選手は感情を持っている人間なので、いつでも客観的に全体を捉えてプレー出来るわけじゃないんですよね。時には熱くもなるし、弱気になったりするんです。そういう点も考慮して監督は指示を出すのです。
不調で弱気になっているバッターに、あえてヒットエンドランのサインを出し、振るきっかけを作ってやることもある。
熱くなっているバッターに、あえて『待て』のサインを出し、頭を冷やす時間を与えることもある。
だからこそ、冷静に戦略を考えることが出来る監督のサインが絶対であり、勝敗を分けることもあるサインをだす監督は、勝敗に対し全責任を負わなければなりません。
選手は監督のサインを信じ全力でプレーすべきです。自分の結果に対しては責任は負うが、チームの勝敗に対し責任を負う必要はありません。
このようなことから、私の考えは『サイン破りはなし』です。