なぜ「後ろ足に体重を残して打て!」と間違った理論が今でも言われるのか?その歴史的経緯を解説!

なぜ「後ろ足に体重を残して打て!」と間違った理論が今でも言われるのか?その歴史的経緯を解説!

日本に野球が伝わったのは明治時代のことです。アメリカ人によって伝えられました。

野球先進国アメリカ。その背中を追っている日本。

この図式は、現代に至るまで変わっておりません。

 

全てではありませんが、アメリカ野球を手本にして日本野球のルールや野球技術が向上していきました。

しかしバッティング技術については、誤った解釈をしてしまった経緯があります。

そして、その理論は今でも生きており、現代のMLB選手とNPB選手の打撃力に大きな差を生んでいるんです。

今回は間違ったバッティング理論とその歴史的経緯についてお話しようと思います。

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【ダメ】後ろ足に体重を残して打て

バッティングでステップと同時に体重を投手側の足(前足)に移すと、体が投手の方へ突っ込んでしまうから、

捕手側の足(後ろ足)に体重を残して打て!

と指導する人がいます。プロ野球経験者である解説者でも、この理論を述べる人は多いですね。

 

この理論を詳しく書くと以下のようになります。

・ステップしたときは、まだ体重を後ろ足に残しておく(これがタメだ)。

・ステップと同時に前足に体重を移すと、上体が投手の方へ流れスウェーする。

・さらに頭がブレるから、ボールが見辛くなり、ミート力が落ちる。

・これを防ぐために、後ろ足に体重を残すのだ。

いかがですか?

野球経験者なら聞いたことがあると思いますよ。中には、

これって正しいじゃないの?

と思われる方もいるかもしれませんが、残念ながら間違っています!

 

この記事では、このバッティング理論の間違っている所や、正しい体重移動については解説しませんが、以下の記事で詳しく解説していますので、興味ある方は是非ご覧ください。

では、なぜこの間違った理論が今まで支持されてきたのでしょうか?

その歴史的経緯を説明したいと思います。

 

昭和24年日米野球が与えた影響

戦前・戦後の日本人選手のバッティングはかぶせ打ちが主流でした。

かぶせ打ちとは、ステップと同時に上体を投手側にかぶせるように打つ方法です。

 ひとこと

 

戦前・戦後の打撃指導は以下のようなものが主流でした。

 

・バットは水平に振れ

 

・上体をかぶせて前で打て

 

・インパクト後すぐに手首を返せ

 

そんな中、昭和24年(1949年)第二次世界大戦の影響で開催が断たれていた日米野球が16年ぶりに行われました。

来日したのはサンフランシスコ・シールズと言う3Aチームですが、ゴルフスイングのような打ち方でガンガン打ちまくります。

これを見せつけられた日本プロ野球界は『今までの打ち方ではダメだ!』と気付き、シールズの打者のマネをするようになりました。

 

これを境に、かぶせ打ちをする選手はいなくなります。

実際、かぶせ打ちは上半身の力だけで打つ方法ですし、なによりスウェーしているわけですから、日本の打者が大きく成長するきっかけになったと思います。

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ジョー・ディマジオが与えた影響と巨人

ジョー・ディマジオは戦前・戦後にニューヨーク・ヤンキースで活躍した、スーパースターです。

1941年に記録した56試合連続試合安打は2018年現在も破られず、いまだMLB記録として残っていますね。

では、簡単にジョー・ディマジオについて記します。

ジョー・ディマジオ(1914年~1999年)

・1936年にニューヨーク・ヤンキースでMLBデビュー。打率.323、29本、125打点。

・1939年に首位打者(打率.381)、MVPを獲得。

・1936年~1939年までヤンキースのワールドシリーズ4連覇に貢献。

・1941年に56試合連続安打を記録。2018年現在も破られず、MLB記録。

・1948年には39本、155打点で本塁打王、打点王を獲得。

・1951年、現役引退。ディマジオの背番号5はヤンキースの永久欠番になる。

※1942~1945年の3年間は第二次世界大戦の従軍で出場試合なし。

・MVP3回、首位打者2回、本塁打王2回、打点王2回

当然、ディマジオも日本では知られた存在であったのは言うまでもありません。あの長嶋茂雄氏もファンだったそうです。

そんなディマジオですが、昭和37年(1962年)に来日し、日本の選手に対しバッティングのお手本を見せました。

選手としては現役を退いていますが、超スーパースターのお手本は日本の選手に大きな影響を与えます。

 

彼のバッティングフォームは、前足(投手側の足)をそっと踏み出すくらいのステップで、体重を後ろに残した印象を与えました。

実際には、当時の写真を見ると前足に体重を乗せて打っており、前足がしっかりと捻りの軸になっています。

後ろ足(捕手側の足)が自由になっており、軽く地面と接触していることがそれを証明しています。

 

そんなディマジオの打ち方をいち早く導入したのが巨人。巨人の指導者は自軍の選手にステップ幅を狭く、そっと前足を踏み出すように指導しました。

しかし、その当時の指導者はディマジオがステップした前足の着地と同時に、体重を前足に乗せていたことを見抜くことが出来なかった。

だからステップを真似ても、体重を後ろ足に残したまま打たせたのです。

 

当時、巨人の監督は川上哲治氏。川上哲治氏は著書の中で、後ろ足に体重を残して打つことを推奨しています。

日本の打者はあまりに早く前足に体重をかけすぎるために上体、腰、頭が大きく前方に移動して、球をひきつけて正確にボールを見ることもできず、腰の回転で打たずに、上体で打つようになり、おまけに前方移動の勢いで打とうとするから、かんじんの”間”がもてなくなり、変化球には泳いでしまうのである。

引用:「バッティングに強くなるために」川上哲治 著

 

川上哲治氏と言えば『野球の神様』とまで呼ばれたプロ野球界のスーパースター。さらに巨人の監督として前人未到の9連覇(9年連続日本一)を達成し、監督としても超一流です。

この当時はまだ監督2年目とは言え、監督1年目にリーグ優勝・日本一に導いています。

そのような方の理論や指導は絶対だと思われても当然だと思います。

 

そして、この『後ろ足に体重を残して打て』という理論が、今日まで言い伝えられたんですね。

影響力の強い人の意見ほど周りは信じてしまいますし、ましてや実績が高い人の意見なら尚更です。

これは野球に限った話ではなく、どんな社会でも同じことですよね。

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時代は変化しつつある

かつてはMLB選手のプレーを見て『彼らはパワーが我々日本人とは違う。日本人が真似すべきではない』という意見が多かった。

そうやってMLB選手の合理的な動作に気付かないことが多かったんですが、日本人がMLBでプレーするようになり、そのような状況は変わりつつあります。

現状の日本人選手でも、ソフトバンクの柳田選手や2018年からMLBでプレーしている大谷選手など、前足にしっかり体重を乗せて打つ選手も増えてきており、確実に日本野球のレベルは高くなっているのは間違いありません。

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