キャッチャーのミットずらしってダメなの?「フレーミング」VS「ミットを動かすな運動」

キャッチャーのミットずらしってダメなの?「フレーミング」VS「ミットを動かすな運動」

キャッチャーはピッチャーの投球を捕球するポジションですので、キャッチング技術はキャッチャーを語る上で欠かすことのできない重要なスキルとなります。

キャッチング技術の中でも、近年重要視されている指標としてフレーミングと言われる技術があります。フレーミングとは、ボールかストライクか際どいコースをキャッチングによってストライクと判定させる技術のことです。

その一方、あからさまなミットずらしは審判から嫌われる傾向にあり、特に外国人審判ほどその傾向が強くなると言われます。実際、外国人審判は ”日本人選手はミットを動かす傾向が強い” と指摘することが多く、2009年よりアマチュア野球界を挙げてミットを動かすな運動を展開しています。

一見すると相反する内容である『フレーミング』『ミットを動かすな運動』ですが、この記事ではキャッチャーのミットずらしの是非について高校・大学とキャッチャーをやっていた私の経験を交えながら考えてみたいと思います。

 

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「フレーミング」を詳しく解説

 

キャッチャーのフレーミングとは、ボールかストライクか際どいコースをキャッチングによってストライクと判定させる技術のことです。

例えば外角の際どいボールを捕球するとき、ミットが外側に流れてしまうと”ボール”と判定される傾向にあります。それを防ぐために外側から内側に寄せながらキャッチングし、球審にストライクと判定されるようにすることがフレーミングです。

フレーミングという単語が聞き慣れない人でも、”昔からそのような技術はあったぞ!” と感じる人は多いのではないでしょうか。実際、昔から多くのキャッチャーがやっていたことですし、当然の技術として認識されていましたからね。

 

このフレーミングが近年注目された背景には、メジャーリーグで先駆けて導入されているトラッキングシステムの存在があります。トラッキングシステムとは球場に設置されたカメラ映像やレーダーを用いてボールや選手を追尾し、ピッチャーの投球の変化量や速度・軌道など詳細なデータを取得できるシステムです。

メジャーリーグでは、トラッキングシステムを用いて投球の変化量や打球角度などの情報を半自動的に取得しています。その結果、微妙なコースをストライク判定させる割合はキャッチャーごとに大きな差があることが分かってきたのです。

”キャッチングの上手さが判定に影響を与える” と以前から何となく言われてきましたが、それらを客観的なデータとして明らかにしたのがトラッキングシステムであり、フレーミングの上手さ・下手さが近年注目されている理由なのです。

 

「ミットを動かすな運動」を詳しく解説

 

ミットを動かすな運動とは、2009年に全日本野球協会が、日本野球連盟(社会人野球)・日本学生野球協会・全日本大学野球連盟・日本高等学校野球連盟(高野連)・全日本軟式野球連盟の5団体に宛てて提言した運動のことです。

以下が抜粋した内容になります。

2.”ミットを動かすな” 運動の展開について

投球を受けた捕手が、”ボール” をストライクに見せようと意図でキャッチャーミットを動かしたり、球審のコールを待たず自分でストライクと判断して次の行動に移ろうとしたりすることについては、審判員の判定を欺いたり、審判員を侮辱する行為に相当するとして、2009年の当委員会からの通達により、このような行為を止めさせる運動を展開しています。しかし、この運動が徹底されているとは言えないのが現状を言わざるを得ません。改めて今一度下記のような行為についてはマナーアップ・フェアプレイの両面から止めさせる運動を継続して指導するよう一層の徹底・ご指導をお願いいたします。

(1)捕手が投球を受けたときに意図的にミットを動かすこと。

(2)捕手が自分でストライク・ボールを判断するかのような行動をとること。

(3)球審の ”ボール” の宣告にあたかも不満を示すように、しばらくミットをその場に置いておくこと。

2018年1月12日 全野協320-42 一部抜粋

要約すると、”審判の判定を欺くために、ミットを左右または上下に意図的に動かす” ”審判を侮辱するようなキャッチングをすることをアマチュア野球では無くしましょう、と提言したものです。

ミットずらしは、国際的には審判の目を欺く卑劣な行為と見られることが多く、それがこの提言に及んだ原因となっています。

 

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球審がミットずらしを嫌う理由

 

なぜ球審はミットずらしを嫌うのでしょうか?

それは『ストライク・ボールの判定に影響を及ぼす行為』だからです。

審判講習会で投球判定の練習をするとき、インストラクターが繰り返し言うのが『トラッキング』です。ここで言う『トラッキング』とはフレーミングで説明したトラッキングシステムのことではなく、ストライク・ボールの判定をするときに顔を動かさず、目だけで投球を追って、捕球されたミットを見ながら判定をすることです。

すわなち、球審が安定した判定を続ける上で ”ミットずらし” は阻害要因になり、判定のばらつきの原因となるのです。この理由により球審はミットずらしを嫌うのです。

 

国際大会において日本の審判員が外国人審判からたびたび次のような指摘を受けています。

日本のキャッチャーは、なぜミットを動かすのだ。我々をだまそうとしているのか。しかし、ジャッジはしやすい。きわどいボールのときは、彼(キャッチャー)がミットを動かしたら、自己申告のとおりにボールをコールすればいい。

強烈な皮肉ですが、このように球審はストライク・ボールの判定に影響を及ぼす行為であるミットずらしをとても嫌うのです。

ちなみに、2017年に行われたWBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)では、日本戦の球審を担当した複数の外国人審判から 日本のキャッチャーがミットを動かしていると指摘されています。

 

フレーミングとミットずらしの違いってあるの?

 

これまでフレーミングとミットずらしを同じような意味で扱ってきましたが、厳密に言えば違いはあります。

フレーミングは ”ストライクを確実にストライクと判定させる” ”際どい投球をより多くストライクと判定させる” 能力をトラッキングデータから客観的に評価した指標のことです。

それに対しミットずらしはキャッチングの際に ”ミットをストライクゾーンにずらす行為” を指しています。

すなわち、

  • フレーミングが優れるようなミットずらしをするキャッチャーは能力が高い選手(勝利に貢献する選手)
  • フレーミングが優れないミットずらしをするキャッチャーは能力が低い選手(勝利に貢献しない選手)

と言えるでしょう。

 

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「フレーミング」VS「ミットを動かすな運動」

 

相反する内容である『フレーミング』と『ミットを動かすな運動』ですが、はっきり言って『ミットを動かすな運動』は徹底されているとは言えませんそもそも『ミットを動かすな運動』を知っている人は少ないでしょうしね。

それに対しフレーミングはキャッチャーの能力を推し測る指標として注目される機会が多くなっています。近年、野球界ではセイバーメトリクスで客観的に選手やチームを評価するようになっていますが、トラッキングシステムの出現によってデータの質・量は大きく変化し、野球のビッグデータ化は進む一方です。

それに従いフレーミングの効果の高さが明確になり、キャッチャーにおける重要なスキルであると認識されています。実際、メジャーリーグの場合、優れたフレーミングにより年間のチーム失点を10点以上少なくするケースもあるくらいなのです。

 

さらにキャッチャー経験者の立場から言わせてもらうと、ミットが流されないキャッチングするためには、ある程度ミットを動かしながら捕球する必要があるのです。

ミットを構えた所に寸分狂わず投げ込まれるボールならまだしも、ボールに合わせるよう動かしたにミットを、捕球と同時に止めることは至難の業なんですよ。そうやろうとしても大抵は重いミットが動かした方向へ大きく流れてしまいます。その結果、ストライクゾーンを通過していたボールが ”ボール” と判定される可能性もありますし、ピッチャーはすごく嫌がります。

それを防ぐために、ボールの軌道に対し先回りするようにミットを移動させ、内側に寄せながら捕球するのです。

 

結局、"キャッチャーがミットをずらす という行為は、

  • 球審に ”ストライク” と判定させる要因になりうる
  • 球審にストライクを ”ボール” と判定させるリスクを低下させる
  • トラッキングシステムにより、その効果が定量的に評価されている(フレーミング)

というメリットがあり、これらを考慮すれば、現状は圧倒的に『フレーミング』の方が優勢であり、今後も『ミットを動かすな運動』が盛り上がる可能性は低いと言わざるを得ません。

もちろん、ミットをずらす量の程度が問題になるのでしょうが、定量的に説明できるものではありませんので、キャッチャー本人・指導者もどれくらいのミットずらしならOK・NGの判断を下すことは難しいでしょう。

いずれ近い将来、ストライク・ボール判定が自動化(AI化)されると思いますが、それまでの間はフレーミングの方が優勢であり、そのスキルをより一層磨く傾向が強くなるはずです。

 

最後に

正直、全く盛り上がっていない『ミットを動かすな運動』ですが、個人的にはミットを動かすことを全て否定するのではなく、マナーに反しているミットの使い方を減らす提言にすべきだと思います。

アマチュア野球のキャッチャーは判定に不満(ストライクだと思ったがボールだった)がある場合、ミットをそのままにするケースを良く目にします。第三者(観客など)から見れば、

このコースが ”ボール” ですか???

って感じでアピールしているように見えますが、意外に審判やキャッチャーの思惑は違うんですよ。

審判から見れば、キャッチャーが

これを見ている皆さん、この審判はこのコースを ”ボール” と言っています。ありえませんよね・・・

と言っているように感じています。しかも審判はこの無言のアピールに対して有効な対抗手段を持っていません。さらにミットをずらした後ですから、やり方が汚いと感じて当然です。

 

それに対し、キャッチャーは単純な行動原理なことが多いです。例えば、ミットの芯で捕球して良い音が鳴り、

どうですか僕のキャッチングは?

と、ピッチャーやベンチの監督・コーチに見せているだけ・・・、なんて軽い気持ちだったりするんですよ。そもそも審判の判定に不満があったとしても判定が覆ることはありませんし、その不満を表情や態度に出してもメリットなど全く無く、そんなことを知らないキャッチャーはほとんどいませんからね。

 

しかし、たとえキャッチャーがこのような悪意の無いミットずらしをやったとしても、結果的に審判を侮辱し傷つける行為になっていることは事実です。そのことをキャッチャーは自覚すべきですし、指導者もキャッチャーに気付かせる指導をしなくてはいけません。

このようなことはキャッチャーを経験していないと理解しづらいことですが、『ミットを動かすな運動』として展開させつつ周知徹底させることは良い事ですし、選手にとってもデメリットはありません。そして野球を通じて人間教育にもきっと役立つでしょう。一般社会でも、たとえ悪意が無くても結果的に人を傷つけることは悪いことですからね。

 


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