2ストライク後にチップしたボールをキャッチャーが捕球した場合、ファウルチップ=3ストライクとなり打者はアウトになります。
では、そのチップしたボールが地面に触れる前にキャッチャーの脇に挟まった場合、どうなると思いますか?
- ファールチップと同じ扱いとなり、3ストライクで打者はアウト?
- 捕球しているとはいえないためファールボール?
プロ野球でもあまり目にしないケースですが、私は大学時代に1回だけ経験したことがあります。もちろん私がその当事者(キャッチャー)として。
この記事では、この場合にどのような判定となるのか解説したいと思います。
『正規の捕球』がポイントになるのですが、野球のルールに対し奥深さを感じると思いますよ。
「正規の捕球」とは?
このケースにおいてポイントになるのは『捕球』であり、公認野球規則には以下のように書かれています。
公認野球規則 5.09 アウト
(a)打者アウト
打者は、次の場合、アウトとなる。
(1)フェア飛球またはファウル飛球(ファウルチップを除く)が、野手に正規に捕らえられた場合。
【原注1】~略~
捕球とは、野手が、インライトの打球、投球または送球を、手またはグラブでしっかりと受け止め、かつそれを確実につかむ行為であって、帽子、プロテクター、あるいはユニフォームのポケットまたは他の部分で受け止めた場合は、捕球とならない。
また、ボールに触れると同時、あるいはその直後に、他のプレーヤーや壁と衝突したり、倒れた結果、落球した場合は ”捕球” ではない。
~以下略~
【原注2】~略~
【注】捕手が、身につけているマスク、プロテクターなどに触れてからはね返ったフライボールを地面に取り落とさずに捕らえれば、正規の ”捕球” となる(ファウルチップについては定義34参照)。ただし、手またはミット以外のもの、たとえばプロテクターあるいはマスクを用いて捕らえたものは、正規の捕球とはならない。
<引用> 2019 Official Baseball Rules 公認野球規則(日本プロフェッショナル野球組織・全日本野球協会)
これについて補足します。
野手がグラブを身体にかぶせるようにしてボールを捕らえたときは ”捕球” とみなします。
しかし、ボールを両腕と胸とで抱き止めている場合は"捕球" とはみなされません。
また、脇に挟んでいる状態でも"捕球" とはみなされません。
すなわち公認野球規則では、手またはグラブでボールをしっかり受け止めることを『正規の捕球』と定めているのです。
< 例題1 >
ゴロを捕ったサードの一塁送球がバウンドし、ファーストがこれを両腕と胸とで抱きとめ、打者走者より早く一塁に触れた。ファーストはボールを取り出し、ボールを所持していることを審判員に主張。
この場合、アウト?セーフ?
【答え】セーフ
ボールを両腕と胸とで抱き止めている状態では、ボールを捕球しているとは認められないため。
ただし、ファールチップについては別の定義がされています。
2ストライク後にチップしたボールがキャッチャーの脇に挟まった場合は、チップしたボールの捕球について定めたルールも合わせて判断する必要があるのです。
「チップしたボールの捕球」に関するルール
次に『チップしたボールの捕球』に関するルールを説明します。
公認野球規則には以下のように書かれています。
公認野球規則 5.09 アウト(a)打者アウト
(2)第3ストライクと宣告された投球を、捕手が正規に捕球した場合。
【原注】
”正規の捕球” ということは、まだ地面に触れていないボールが、捕手のミットの中に入っているという意味である。ボールが、捕手の着衣または用具に止まった場合は、正規の捕球ではない。また、球審に触れてはね返ったボールを捕らええた場合も同様である。
チップしたボールが、最初に捕手の手またはミットに触れてから、身体または用具に当たってはね返ったを、捕手が地上に落ちる前に捕球した場合、ストライクであり、第3ストライクにあたるときには、打者はアウトである。また、チップしたボールが、最初に捕手の手またはミットに当たっておれば、捕手が身体または用具に手またはミットをかぶせるように捕球することも許される。
<引用> 2019 Official Baseball Rules 公認野球規則(日本プロフェッショナル野球組織・全日本野球協会)
公認野球規則 定義34
FOUL TIP「ファウルチップ」
打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手の手に飛んで、正規に捕球されたもので、捕球されなかったのもはファウルチップとならない。ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである。前記の打球が、最初に捕手の手またはミットに触れておれば、はね返ったものでも、捕手が地面に触れる前に捕らえれば、ファウルチップとなる。
【注】チップしたボールが、捕手の手またはミット以外の用具や身体に最初に触れてからはね返ったものは、たとえ捕手が地面に触れる前に捕らえても、正規の捕球ではないから、ファウルボールとなる。
<引用> 2019 Official Baseball Rules 公認野球規則(日本プロフェッショナル野球組織・全日本野球協会)
要約すると以下のようになります。
- チップしたボールを地面に触れる前に、キャッチャーがミットや手でしっかり捕らえたものを『正規の捕球』という。
- チップしたボールをキャッチャーが正規に捕球した場合、ファールチップ=ストライクとなる。
- ファールチップはボールインプレーである。
- チップしたボールをキャッチャーが捕らえることが出来ない場合はファールチップではなく、ファールとなる。
- チップしたボールが最初にミットや手に当たった場合、はね返ったボールを地面に触れる前にキャッチャーがミットや手でしっかり捕らえれば『正規の捕球』とみなし、ファールチップとなる。
- チップしたボールが最初にミットや手以外に当たった場合、はね返ったボールを地面に触れる前にキャッチャーがミットや手でしっかり捕らえても『正規の捕球』とはみなさず、ファールとなる。
- チップしたボールを両腕と胸とで抱き止めている場合や、脇に挟んでいる状態は『正規の捕球』とはみなさない。
つまり、2ストライク後のファールチップがキャッチャーの脇に挟まった場合、
”ファールチップとはみなされず、ファールボールとなる”
が正解です。
理由は、ボールが脇に挟まることは『正規の捕球』とはみなされないからです。
一般的な捕球とファールチップの捕球の違い
上に挙げた、一般的な捕球(フライや送球の捕球)とファールチップの捕球において、若干の違いがあることに気付きましたか?
一般的な捕球の場合、キャッチャーのマスクに当たってはね返ったボールを地面に触れる前に捕らえれば、”正規の捕球” とみなされます。
ファールチップの捕球の場合、キャッチャーのマスクに当たってはね返ったボールを地面に触れる前に捕らえたとしても、”正規の捕球” とはみなされません。
これらをひっくるめて『何でもノーバウンドで捕ればアウトになるんでしょ』と思っていたら間違いですからね。
< 例題2 >
フライを追いかけたキャッチャーが捕り損ねて、マスクにボールが当たり上の方に大きくはねた。そのボールをミットで捕らええ、ボールを所持していることを審判員に主張。
キャッチャーフライが成立して打者はアウトなる?ならない?
【答え】アウトになる
< 例題3>
2ストライク後のファールチップがキャッチャーのマスクに直撃、そのまま上の方に大きくはねた。そのボールをミット捕らえ、ボールを所持していることを審判員に主張。
ファールチップが成立して打者はアウト?それともファールボール?
【答え】ファールボール
私のケースは「打者アウト」。でもなぜ?
2ストライク後のファールチップがキャッチャーの脇に挟まった場合、ファールチップとはみなされずファールボールとなることは先に説明した通りです。
しかし、私が大学時代に経験したときは『ファールチップ=ストライク=打者アウト』だったのです。
このときの経緯をもう少し詳しく説明すると、以下のようになります。
- 試合は公式戦で正式な審判員が試合を裁いていた
- 判定は球審および塁審が協議した結果だった
- キャッチャー(私)のミットに触れてはおらず、間違いなく脇に挟まった感触があった(それなりに痛かった)
- 脇に挟まったボールを素早く右手でつかみ、球審にボールを捕らえたと主張した。
ちなみに、当時の私は『ノーバウンドで捕ればファールチップでアウトなんでしょ』という知識しかなかったため、なぜ審判員が協議しているのか理解不能でした(笑)
協議の結果『アウト』と判定されても、
当然でしょ!
と思いましたしね。
では、なぜ協議までやりながらアウトという判定が下されたのでしょうか?
単なるミスジャッジだったのでしょうか?
これは直接審判員の方に聞いた訳ではないので、あくまで私の推測になりますが、恐らく私がすぐにボールを右手で掴んだことが大きかったと思います。
すなわち審判員は、
- 最初にミットに触れていた
- ボールが脇に挟まったのではなく、身体と右手でかぶせるようにしてボールを捕らえた
と判断し、正規の捕球としてみなしたということです。
そもそも一瞬のプレーにおいて、『チップしたボールがミットに当たった』『脇に挟まった』『身体(胸)と右手で挟むように捕った』など、ビデオ判定でもない限り正確に認識することは困難です。
それに加え、私がすぐに脇に挟まったボールを掴みましたので、尚更判断が難しくなったはずです。
そう考えると、審判員のミスジャッジと言えるかもしれませんが、著しく判断が難しいプレーであったことは間違いありません。
面白いのは、もし仮に私が脇に挟まっているボールを堂々とアピールしたら、正規の捕球として認められずファールボールになったと思われることです。
当時は何の考えも無く、脇に挟まったボールを素早く右手でつかみ球審にボールを捕らえたと主張しましたが、今となって考えると、その行為は隠れたファインプレーだったのかもしれません。
まとめ
結論として、2ストライク後にチップしたボールがキャッチャーの脇に挟まった場合、たとえ地面に触れる前に捕球したとしても『正規の捕球』としてみなされず、ファールボールになります。
この結論に至るには『正規の捕球』を理解する必要があり、意外と難しいルールが絡んでいます。
ただ、判定を下す審判員は人間ですので、
- 審判にどう見られているか
- 審判にどう見せるか
を考えてプレーすることは大切です。
これらのことは、少しでも有利に試合を運ぶテクニックのひとつであると言えるでしょう。
そのためにも、ルールを詳しく知っておくことが重要なのです。