守備側にとって、ランナー1,3塁のダブルスチール(重盗)の対処は非常に難しく、組織的な守備力が求められます。
基本的に攻撃側が有利な駆け引きであり、守備側は ”試合展開・得点差・キャッチャーの肩の強さ、セカンド・ショートの守備力” などを考慮し、かつ状況に対応しなくてはいけません。
その難しさゆえ、ランナー1,3塁の場面で一塁ランナーが盗塁した場合、ほぼフリーパスでランナー2,3塁になってしまう・・・なんてチームも多いのではないでしょうか?
この記事では、そんな難しい1,3塁の盗塁およびダブルスチール対策のコツを解説します。
以下のことを理解・実践すれば、必ずダブルスチールの阻止率が上がりますし、抑止力も高まります。
- ダブルスチール(重要)のパターン
- 守備体系のパターン
- 三塁ランナーは何を根拠にスタートするのか?
- キャッチャーの肩の強さによる影響
- 弱肩でも三塁ランナーにスタートさせないテクニック
ダブルスチール(重盗)と守備体系のパターン分類
ランナー1,3塁のダブルスチールは、一見すると複雑そうに見えますが、実際はいくつかのパターンに分類できます。
同様に、守備側はダブルスチールのパターンを考慮した守備体系をとりますので、これもいくつかのパターンに分類できます。
それをまとめたものが、下の表1になります。
表1 パターン分類表
この表は、ダブルスチールのパターンを[A]~[C]、守備体系のパターンを①~④に分類しているものです。
< ダブルスチールのパターン[A]~[C] >
[A]ギャンブルスタート
キャッチャーが二塁へ送球した瞬間、三塁ランナーがスタートをきるダブルスチールです。目的は1点を取ることです。
三塁ランナーのスタートが早すぎると、キャッチャーがそれに気付き、二塁送球をやめてしまいますし、スタートが遅くなるとセーフになりづらくなりますので、スタートするタイミングが重要な作戦です。
[B]ピッチャーを越えたらスタート
キャッチャーの二塁送球がピッチャーを越えてから、すなわちピッチャーがカットしないことが分かった瞬間にスタートをきるダブルスチールです。目的は1点を取ることです。
キャッチャーが二塁へ偽投、またはピッチャーカットの送球した場合、三塁ランナーがスタートをきっているとほぼアウトになりますが、それを防ぐために、”送球がピッチャーカットではない” ことを確認してからスタートをきる作戦です。
[C]走らない
ダブルスチールをちらつかせながら、一塁ランナーが二塁へ盗塁する作戦です。目的は一塁ランナーの進塁、すなわちランナー2,3塁にすることです。
< 守備体系のパターン①~④ >
①二塁送球
一塁ランナーの二塁盗塁を阻止するために、キャッチャーが二塁へ送球するプレーです。
②セカンドカット
キャッチャーが二塁へ送球しますが、それをセカンド(またはショート)が前に出てカットし、飛び出した三塁ランナーをアウトにしようとするプレーです。
③ピッチャーカット
キャッチャーが二塁へ送球します(と見せかける)が、その送球をピッチャーがカットし、飛び出した三塁ランナーをアウトにしようとするプレーです。
④偽投(投げない)
キャッチャーが二塁へ偽投をし、飛び出した三塁ランナーをアウトにしようとするプレーです。
攻撃側と守備側はともに、試合展開や得点差、自軍選手の能力や相手選手の能力によるセオリーを考慮し、より合理的な作戦を選択します。
実際の試合では、守備側が『攻撃側がこんなパターンでダブルスチールを仕掛けてきた!じゃあ守備体系はこれで守る・・・』と瞬時に判断することなどできません。
上に挙げたような要因を考慮したうえで、守備側は攻撃側のダブルスチールを想定し、『ダブルスチールを仕掛けた場合、このパターンの守備体系で守る』と決めておかなければ対応できません。
それが ”攻めと守りの駆け引き” と言われる理由なのです。
試合で「ギャンブルスタート」が少ない理由
実際の試合では、攻撃側の ”[A]ギャンブルスタート” はほとんど使われません。
理由は、 ”[A]ギャンブルスタート” はアウトになるリスクが高すぎるためです。
キャッチャーが二塁に投げることが前提の作戦ですし、『キャッチャーが二塁に投げようとしたが、ボールが手につかず投げるのを止めた』なんてケースでも、三塁ランナーがアウトになりますからね。
攻撃側の基本パターンとしては ”[B]ピッチャーを越えたらスタート” ”[C]走らない” が圧倒的に多くなります。
『ギャンブルスタートが少ない』と言うことは、『三塁ランナーは簡単に飛び出さない』ことになり、守備側がピッチャーカットや二塁送球の偽投をしても、三塁ランナーをアウトにできません。
ピッチャーカットや偽投は、少年野球でも使われるプレーですが、ほとんど三塁ランナーはアウトにならないでしょ?
三塁ランナーは何を根拠にスタートするのか?
ダブルスチールのパターンとして多い、”[B]ピッチャーを越えたらスタート” ですが、できることなら早くスタートしたいのが三塁ランナーの心境です。
そのために三塁ランナーは、キャッチャーが二塁へ投げるボールの角度を見て『二塁送球』『セカンドカット』『ピッチャーカット』を見破ろうとします。
- キャッチャーの投げるボールの角度が大きい=遠くに投げる=ピッチャーカットは無い → スタートする
- キャッチャーの投げるボールの角度が小さい=近くに投げる=ピッチャーカットの可能性が高い → スタートしない
この角度の違いはキャッチャーの肩の強さにより変化し、肩が強いほど角度の違いが小さく、肩が弱いほど角度の違いが大きくなります。
すなわち、肩の強いキャッチャーほど『二塁送球』『ピッチャーカット』を見破りづらく、肩の弱いキャッチャーほど見破りやすくなります。
このように、キャッチャーの肩の強さは、ただ単に盗塁を刺しやすいだけでなく、ダブルスチールを未然に防ぐ抑止力にもなるのです。
”[B]ピッチャーを越えたらスタート” の場合、三塁ランナーはキャッチャーの投げるボールの角度を根拠に『二塁送球』『ピッチャーカット』を判断し、スタートする・しないを決断する。
キャッチャーの肩が弱いデメリット
図1は、一塁ランナーの盗塁に対し、肩の弱いキャッチャーが二塁へ送球している様子を表しています(ショートが二塁ベースカバー、セカンドがカットマン)。
図1 キャッチャーの肩が弱い場合
先ほど説明したとおり、三塁ランナーはキャッチャーの投げるボールの角度を見て『スタートする』『スタートしない』を判断します。
キャッチャーの肩が弱いほど、投げるボールの角度が大きくなりますので、三塁ランナーは判断はしやすくなり、かつその判断の確実性も高まり、スタートを切りやすい状況になります。
さらに、図1はキャッチャーが二塁へ送球していますが、肩が弱いほど送球が山なりになるため、セカンドがカットできないことがあります。
それを防ぐため、肩の弱いキャッチャーは以下の図2のような送球をするのです。
図2 弱肩キャッチャーによる送球のセカンドカット
一見すると二塁送球と同じように見えますが、最初からカットに入るセカンドに向けてキャッチャーは投げています。
もしこの送球をショートが『ノーカット』と指示した場合、ノーバウンドで二塁ベースに届かず、ショートバウンドやハーフバウンドになってしまいます。
これをショートが逸らしてしまえば、たとえ三塁ランナーがスタートを切っていないかったとしても、ホームにかえってきてしまいますので、ショートは『セカンドカット』せざるを得ないのです。
三塁ランナーがスタートを切っておらず、一塁ランナーを二塁でアウトにできるタイミングでも『セカンドカット』しなくてはいけません。
これは守備側にとって大きなデメリットになります。
< キャッチャーの肩が弱い場合のデメリット >
- 二塁送球の角度が大きくなり、三塁ランナーはスタートしやすくなる
- 二塁送球およびセカンドカットの送球を、それぞれ投げ分ける必要があり、野手は臨機応変の対応ができない
キャッチャーの肩が強いメリット
図3は、一塁ランナーの盗塁に対し、肩の強いキャッチャーが二塁へ送球している様子を表しています(ショートが二塁ベースカバー、セカンドがカットマン)。
図3 キャッチャーの肩が強い場合
キャッチャーの肩が強いと沢山メリットがあります。
1つ目のメリットは、キャッチャーの投げるボールの角度が小さくなるので、三塁ランナーは『二塁送球』『ピッチャーカット』の判断が難しくなり、その結果スタートが切りづらくなります。
2つ目のメリットは、『盗塁をアウトにする二塁送球』『セカンドがカットできる送球』を共に兼ねていることです。
言い換えると、キャッチャーによる二塁送球をセカンドがいつでもカットできる状態となり、守備側が『二塁送球』『セカンドカット』を後出しで変更できることがあるのです。
例えば、ショートの指示で
- 三塁ランナーが走っていなければノーカット
- 三塁ランナーが走っていればカットしバックホーム
なんてことも可能なのです。
これらをまとめると、肩の強いキャッチャーが二塁に送球した場合、三塁ランナーがスタートを切りづらく、かつスタートを切ってもセカンドカットにより本塁でアウトにできる可能性が生まれるのです。
攻撃側から見ると、『①二塁送球』『②セカンドカット』は守備側が最初から選択しているプレーではなく、『⑤二塁送球 or セカンドカット』という、状況に合わせた臨機応変のプレーに感じます。
以下の表2をご覧下さい。
表2は表1の『①二塁送球』『②セカンドカット』を『⑤二塁送球 or セカンドカット』として置き換えたものです。
表2 パターン分類表(キャッチャー強肩Ver)
いかがですか?
攻撃側から見ると、ダブルスチールで三塁ランナーがアウトになるリスクが一気に高まったことが分かると思います。
”[A]ギャンブルスタート” を仕掛けた場合、セカンドにカットで何とか五分五分の勝負。それ以外はアウトになる。
”[B]ピッチャーを越えたらスタート” ではセカンドにカットされる可能性が高く、ほとんどアウトになる。
現実的にダブルスチールを成功させようとしたら、”[A]ギャンブルスタート” しかなく、それとて高い勝算があるわけでありませんから、リスクが高いと感じるのも当然ですよね。
これらのことから、キャッチャーの肩が強いと攻撃側に与えるプレッシャーが大きく、ただ単に『盗塁を仕掛けたランナーをアウトにしやすい』だけでなく、それ以上の効果があるのです。
< キャッチャーの肩が強い場合のメリット >
- 二塁送球の角度が小さいため、三塁ランナーはスタートしづらくなる
- 『盗塁をアウトにする二塁送球』『セカンドがカットできる送球』を共に兼ねる送球が可能であり、三塁ランナーの動きに対応した送球先を選択できる
さらに肩が強い場合
さらに肩が強いキャッチャーの場合、もはやキャッチャーの投げるボールの角度で二塁送球とピッチャーカットの送球を判別することができません。
攻撃側からすると、ダブルスチールを成功させるためには”[A]ギャンブルスタート” しかなく、それすら勝算が低い状況に追い込まれ、結果的にダブルスチールを仕掛けることができなくなります。
図4 キャッチャーの肩がさらに強い場合
弱肩でも三塁ランナーにスタートさせないテクニック
ランナー1,3塁のダブルスチール対策は、強肩のキャッチャーの方が圧倒的に有利になりますが、
結局、肩の弱いキャッチャーは何も対抗できないの?・・・
と思われる方もいると思います。
実は強肩のキャッチャーほどではありませんが、肩の弱いキャッチャーでも三塁ランナーのスタートを遅らせるテクニックがあります。
先ほど説明しましたが、三塁ランナーはキャッチャーの投げるボールの角度を根拠に『二塁送球』『ピッチャーカット』を判断し、スタートする・しないを決断します。
ですので、投げるボールの角度を分かりづらくすれば、三塁ランナーがスタートできません。
そのために、勇気を持ってワンバウンドで二塁に送球するのです!
図5 効果的なワンバウンド送球
ポイントはワンバウンドで丁度良い二塁送球にすることです。決してカットに入るセカンドを目安に投げないようにしましょう。
こうすれば山なりの送球を避けることができますから、三塁ランナーはスタートしづらくなります。
セカンドがカットしづらくなるデメリットも生じますが、三塁ランナーのスタートを防ぐことができれば、セカンドカットの必要がありませんので、実質的に大きなデメリットにはならないでしょう。
一塁ランナーは二塁に行き放題・・・一塁ランナーを刺そうと二塁に頑張って投げれば三塁ランナーが突入してくる・・・
こんな状況になるくらいならば、やってみる価値は十分あるはずです。
弱肩キャッチャーでも、勇気を持ってワンバウンド送球すれば三塁ランナーはスタートが切りづらくなる!
まとめ
ランナー1,3塁のダブルスチール対策として、ピッチャーカットや二塁送球の偽投などを練習するチームも多いですが、実際の試合ではほとんど三塁ランナーをアウトにできません。
ピッチャーカットや偽投で三塁ランナーをアウトにする条件は、三塁ランナーが飛び出す=ギャンブルスタートすることですが、攻撃側はアウトになるリスクが高いので、滅多に三塁ランナーは飛び出しません。
そして、走りもしない三塁ランナーを気にするあまり、一塁ランナーの二塁盗塁がフリーパスになってしまうケースは本当に多いです。
本来は、ランナー1,3塁で一塁ランナーが走ったら場合、しっかりと二塁でアウトにすることを基本とすべきです。
走った一塁ランナーを二塁で刺せれば、攻撃側はギャンブルスタートせざるを得ない状況に追い込まれます。
この状況を作り出せば、ピッチャーカットや偽投が効果的になり、飛び出した三塁ランナーをアウトにできるようになるのです。
もちろん、攻撃側がダブルスチールを諦めてくれれば、それに越したことはありません。
ランナー1,3塁のダブルスチールは、この記事で紹介したパターンだけでなく、スクイズを偽装するパターンやディレードスチールを絡めたりなど様々です。
しかし、基本パターンさえも対処できなければ、ランナー1,3塁からフリーパスで2,3塁になってしまい、大量失点の原因になりかねません。
それを防ぐためにも、キャッチャーは強く・素早い送球ができるよう努力する必要があります。
それでもキャッチャーの肩が弱い場合は、この記事で紹介したワンバウンド送球をすることで、1,3塁がフリーパスで2,3塁になるような事態は避けられるはずです。
ワンバウンド送球などカッコ悪いと思うかもしれませんが、カッコつけてノーバウンド送球にこだわり、その結果盗塁され放題になるくらいならば、やる価値はあると思いますけどね。