マリアノ・リベラ氏はニューヨーク・ヤンキースで長く活躍した投手であり、歴代最多の通算652セーブを誇る偉大なクローザーのひとりです。
『投球の8割がカットボール』と言われるくらいカットボールを投げる比率が高く、手元で鋭く曲がるボールは多くの打者のバットをへし折ってきました。
そうなると、
リベラのカットボールって何が凄いの?
と疑問が湧きませんか?
実はPITCHf/xで取得したトラッキングデータにより、リベラ氏が投げていたカットボールの性質が明らかになっています。
この記事では、そんなリベラ氏が投ていたカットボールの驚くべき正体について説明したいと思います。
これを知れば、多くのMLBの打者がリベラ氏を攻略できなかったことに納得すると思いますよ。
マリアノ・リベラの成績
ここでマリアノ・リベラ氏の成績を振り返りたいと思います。
リベラ氏は1990年にドラフト外でヤンキースに入団し、1995年のメジャーデビュー。1997年からクローザーを任され不動の守護神となります。
2013年に引退しましたが、その年も44セーブを挙げるなど最後まで第一線で活躍し続けました。
MLBのスタープレイヤーとしては珍しく、1球団のみ(ニューヨーク・ヤンキース)でキャリアを全うした選手であり、いわゆる、フランチャイズ・プレイヤーです。
- 登板数:1115試合
- 勝利数:82
- 敗戦数:60
- セーブ数:652
- 防御率:2.21
- WHIP:1.00
- 最多セーブ投手:3回(1999年、2001年、2004年)
通算セーブ数652は歴代1位の大記録ですし、通算防御率2.21、通算WHIP1.00が示すとおり安定感抜群の成績を残し続けました。
さらに、ポストシーズンにはめっぽう強く、96試合141イニング8勝1敗42セーブ、防御率0.70、WHIP0.76と圧倒的な成績です。
常に勝利が求められる名門ヤンキースの守護神に相応しいクローザーだったと言えますね。
リベラ氏が投げるカットボールの驚くべき正体!
図1 2012年~2013年におけるリベラ氏の球種毎の変化量
引用元:セイバーメトリクス入門、水曜社
早速、PITCHf/xで取得したリベラ氏のトラッキングデータを見てみましょう!
図1は、2012年~2013年におけるリベラ氏が投げた球種毎の変化量を示しています。
< 図1の見方 >
縦軸のプラスはホップ方向への変化量を示し、マイナスは落ちる方向への変化量を示しています。
「ホップ方向」への変化についてですが、これは実際にボールが浮き上がっているわけではなく、重力のみの影響を受けた場合を「0」としています。
縦軸のプラスが大きければ大きいほど、”打者にとって浮き上がるように感じるボール” となりますが、物理的に浮き上がっているわけではない、という意味ですね。
横軸のプラスはスライド方向への変化量を示し、マイナスはシュート方向への変化量を示しています。
まずはストレート(フォーシーム)。
リベラ氏のストレートはシュート回転しながらホップしていますが、特に目立った点があるわけではありません。
次にカットボール。
ストレートに比べて20cmほどスライド方向へ変化しています。この変化量はカットボールとしては非常に大きいものになっています。
さらに驚きなのが、このカットボールはストレートよりホップ方向への変化量が大きく、何とホップ軌道を描くボールだったことです!
カットボールはカットファストボールとも呼ばれ、ストレートに少しスライド回転をかけたボールです。
そういった点ではストレート系に分類されますが、ストレートよりホップ方向への変化量が大きいとなれば話は別。
打者にとってみると、リベラ氏の投げるボールは
カットボール=スライド回転するストレート
ストレート=シュート回転して落ちるファストボール
のような感覚かもしれません。
いずれにしても、ストレートと同じような軌道をイメージしてカットボールを打ちにいっても上手く捉えられないでしょうね。
ストレートよりホップホップ方向への変化量が大きい変化球を投げる投手は他にほとんどいませんし、リベラ氏はクローザーでしたので打者が慣れるほど多くの打席には立てませんしね。
結論として、リベラ氏は非常に珍しい球種を投げる希少性の高い投手だったのです。
だからこそ、MLBの強打者を相手にカットボールのみで抑え続けられたのだと思います。
リベラ氏のカットボールの投げ方
リベラ氏はカットボールの投げ方を惜しげもなく公開しており、
フォーシームより少しだけ内側にずらして中指に力を込めて投げるんだ!
手首を曲げて投げずに、中指を意識して投げ下ろすんだ!
と説明しています。
さほどストレートと変わらない投げ方にも関わらず、ストレートとは全く違う軌道を描くのは面白いですね。
まとめ
リベラ氏が投げるカットボールの正体は、
ストレートよりホップするボール
でした。
そりゃ打てんわ・・・
と思ったでしょ?
ただ、我々一般の野球人にも参考になる点もあるんですよね。
投手が新しい変化球を試すとき、狙った変化をしなかったり曲がりが小さかったりすると『使えない球種』としてお蔵入りになることが多いですが、そうやってすぐに諦めるのは早計です。
もしかすると予想だにしない変化をしているかもしれませんので、打者に投げて反応を見てから判断しても遅くありません。
その点ではストレートも同じ。
PITCHf/xシステムにより、ストレートの球速とボールの回転数には相関(比例関係)があることが分かっています。
簡単に言えば、球速が速ければ速いほどボールの回転数は増え、この関係から乖離するボールを投げる投手は希少性の高い投手となります。
そんな投手いるの?
と思われるかもしれませんが、例えばソフトバンクホークスの和田毅投手。
彼の投げるストレートの球速は140km/h前後とプロ野球選手の中では遅い方ですが、球速に対して回転数が多く、ホップ方向への変化量が大きいストレートを投げるんですよ。
ですから打者は思いのほか打ちづらく、高い奪三振率の裏付けとなっているのです。
もしあなたが投手をやっていて『理由は分からないが打者が打ちづらそうにしているなぁ』と感じたら、何かしらの魔球(特殊な変化)を投げているかもしれませんので、そのボールを信じてみてもいいかもしれませんよ♪